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SNSがもたらす評価と承認の「毒」、脱するための「弱い自立」とは 評論家、宇野常寛氏 世界線の歩き方

産経ニュース / 2025年1月24日 8時0分

インタビューに応じる評論家の宇野常寛氏=東京都新宿区(相川直輝撮影)

選択次第であり得たかもしれない、この現実とは異なるもう一つの現実。それは今、「世界線」と呼ばれるようになった。産経新聞ではこの言葉を手がかりとして、時代を象徴する5つのキーワード(インターネット、コンプライアンス、豊かさ、結婚、戦争)を考察する連載を展開してきた。より善き未来へと通じる「世界線の歩き方」とは、どんなものだろうか。最前線で思索する識者とともに、今一度考えてみたい。

「私刑の快楽」

《インターネットがもたらす弊害について警鐘を鳴らしてきた》

現代は、国境を越えるグローバル資本主義というゲームをプレーし「世界に影響を与えている」という実感を得る一握りのエリート層と、国境の内側に閉じ込められ、世界に対する「手触り」を得られずにいる多数の人々に二分された時代だ。

多数の人々は、SNS(交流サイト)で情報を発信し、それが「いいね」のように評価されると、自分の存在を肯定することができる。SNSはフェイク(偽)ニュースや陰謀論という麻薬を与えるが、最も効率よく承認を獲得できるのは、正義の名の下に他の誰かに石を投げる「私刑の快楽」だ。

「遅さ」提唱も無力感

《そうした現状に対抗するため、2020年に「遅いインターネット」を提唱し、良質な記事の配信と情報「発信」のノウハウを学ぶ講座を開始した》

情報技術の発展、「より速いインターネット」に埋没することで、多くの人は考えなくなり、「愚か」になったと感じていた。遅いインターネット、言い換えれば「啓蒙(けいもう)活動」によって対抗しようとした。

だが、インフォデミック(ネット上にデマなど大量の情報が氾濫し、社会に影響を及ぼす現象)に支えられた新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)とも重なり、人々はより速いインターネットに溺れるようになった。

巨大な力の前で無力感を覚えた、というのが正直な感想だ。

「制作」にこそ活路が

《昨年末に刊行した新著「庭の話」では、承認欲求の氾濫から逃れる方策として「弱い自立」という概念を提唱している》

現代の情報技術は、SNSのプラットフォームを通していやおうなく、私たちを市場からの評価や共同体からの承認の虜(とりこ)にしてしまう。そこから脱するには、承認や評価を他人に委ねない「弱い自立」が必要だ。

哲学者のハンナ・アーレントは、人間の基本的な活動を3つのカテゴリーに分類した。生活のための必需品を確保する「労働」、物や事を作り出し世界に変化をもたらす「制作」。そして、他者と交流し世界を形成する政治的である「行為」の3つだ。

現代は、この労働が極めて大きく膨張した時代だ。その労働をこなす能力で価値が測られ、人間は市場価値に換算される。

そして、そこで評価を得られない人々が、承認を求めてSNSで政治的な発言などに、つまり「行為」に走っている。

《「労働」でも「行為」でも行き詰まってしまう状況にある》

僕は「制作」にこそ注目したい。それは、生きがいややりがい、自分がそれを行うこと自体が喜びであるような生活のことだ。起業して成功するようなことではなく、夢中になれる趣味でもいいし、集団の歯車の一部ではなく「自分の仕事」とちゃんと思えるような活動なら何でもいい。コロナ禍をへて、副業や複業が普及した現代では、そうした生き方が可能となっている。

制作を通して世界への手触りを得て、「評価」や「承認」に固執しすぎない人間のあり方を考えることが、閉塞(へいそく)的な現状を変えるのかもしれない。

うの・つねひろ 昭和53年、青森県生まれ。批評誌「PLANETS」編集長。著書に「ゼロ年代の想像力」、「リトル・ピープルの時代」、「遅いインターネット」、「砂漠と異人たち」など。

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