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認知症は高齢者に限らぬ「国民病」 安心して出歩ける街へ、自治体が意識すべき当事者視点

産経ニュース / 2024年5月9日 6時0分

沖田裕子さん(本人提供)

長寿化に伴い、2060(令和42)年には高齢者の5・6人に1人が認知症という政府推計が8日、明らかになった。健康・長寿に関する出展が予定されている2025年大阪・関西万博で、国は認知症の人が暮らしやすい社会の啓発に注力。認知症当事者の視点に立ったまちづくりを進める自治体もある。

万博で認知症「疑似体験」も

厚生労働省は、万博での情報発信の準備費として令和6年度予算に2300万円を計上。会場で認知症に関する正しい知識とともに、共生社会の実現に向けたメッセージを発信する計画だ。

具体的には、認知症を疑似体験する機会を設けたり、最新の研究結果や国内外の認知症施策に関するパネル展示をしたりする予定。認知症のシンボルカラーのオレンジでライトアップすることも検討している。厚労省の担当者は「半年の会期中にさまざまな国が集う万博の特徴を生かし、認知症を身近に感じられる展示を目指す」と述べた。

福岡市は手引策定

自治体も対策を進めている。福岡市は、認知症になっても住み慣れた地域で安心して自分らしく暮らせるよう、2年に「認知症の人にもやさしいデザインの手引き」を策定した。色(明度)の組み合わせ▽サインと目印の活用▽明るさの調節-など5つの視点に基づく内容で、市役所や駅といった公共施設や高齢者施設など計52施設(今年1月末時点)で導入されている。

認知症の人が「見つけづらい」と悩みがちなのが、トイレだ。扉と周囲の壁の色にコントラストをつけたり、ピクトグラム(絵文字)に「トイレ」の文字を併記したりすると伝わりやすくなるという。市の担当者は「トイレでスムーズに用が足せないと自尊心が傷つき、外出がおっくうになる。分かりやすいデザインが求められる」と説明する。

福祉のまちづくりに詳しい近畿大総合社会学部の北川博巳(ひろし)准教授は、認知症の進行を遅らせる上では適度な運動が欠かせないと指摘。しかし「多くの高齢者が、歩道は狭くて休憩できる場所が少ないと感じている」と話す。

福祉の観点からまちづくりを考えるとき、誰もが安心して出歩ける環境整備は認知症の人に限らず重要だという。北川准教授は「ウォーカブルシティ(歩きやすい街)のコンセプトを取り入れる自治体も増えてきており、今後の整備に期待したい」と語った。

根強い誤解と偏見

将来的な急増が見込まれる認知症だが、少子高齢化の影響もあり、医療福祉の分野で支援にあたる人材の確保が進むかは不透明だ。地域で認知症の人をサポートする態勢が求められる。

今年1月施行の認知症基本法では、認知症の人が「尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができる社会」を基本理念に掲げている。

ただ現実はほど遠い。大阪市のNPO法人「認知症の人とみんなのサポートセンター」代表の沖田裕子さん(59)によると、認知症への誤解や偏見が根強く、周囲から行動を制限されるケースも多い。

厚生労働省の令和2年調査によると、65歳未満の若年性認知症者は推計で3万5700人。発症するのは高齢者に限らないことからも、認知症は「国民病」といえる。ただ専門医の数は不足し、特別養護老人ホームなどで介護にあたる職員も担い手が少ないとされる。沖田さんは「医療福祉の支援サービスに頼り続けるのは現実的ではない。周囲の人が病気を受け入れる地域社会を目指すべきだ」と話す。

「メモリークリニックお茶の水」院長の朝田隆・筑波大名誉教授は「認知症の発症前にエンディングノートを『未来への連絡帳』として活用すれば、当事者や家族にとっての予習になる」と呼びかける。

京都大大学院医学研究科の今中雄一教授(医療経済学)は「誰もが社会参加できる態勢が必要」とし、「認知機能が落ちても、先進技術の活用などにより環境が整えば活躍できる人もいる。『支援されるだけの存在』とレッテル貼りをしないことが大切だ」と強調した。(吉田智香、木ノ下めぐみ、石橋明日佳、宇山友明)

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