1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

待望の商業捕鯨復活も手放しで喜べず 低迷する鯨食文化や厳しい国際情勢にどう抗うか 

産経ニュース / 2025年2月7日 7時30分

生態系総合研究所代表理事の小松正之氏(本人提供)

戦後の復興期から高度経済成長期にかけ、貴重なたんぱく源として日本人を支えた鯨肉。近年は国内の生産量、消費量ともにピーク時の1%程度にまで低迷し、伝統の鯨食文化の存続が危ぶまれている。昨年には、最新鋭の技術を搭載し73年ぶりに建造された捕鯨母船「関鯨(かんげい)丸」が鯨食文化復興の期待を背負って初漁へ。ナガスクジラの捕獲も解禁されたが、前途は多難といえる。

半世紀ぶり捕獲

共同船舶(東京都中央区)が約75億円を投じ、昨年3月に新造した関鯨丸。仙台港を拠点に同年5月から、排他的経済水域(EEZ)の北海道沖や東北沖で初めての商業捕鯨を実施し、同年12月に母港である山口県下関市に帰港した。

関鯨丸は全長112・6メートル、総トン数9299トンの電気推進船。コンテナ式の保冷設備や、海上でクジラを探索する大型ドローン用のデッキも備えている。

日本捕鯨協会によると、約7カ月に及ぶ今回の漁では、ニタリクジラ175頭、イワシクジラ25頭、ナガスクジラ30頭、計1548トンのクジラを捕獲した。ナガスクジラの捕獲は商業捕鯨として半世紀ぶりになるという。

関鯨丸の完成で「今後30年間はクジラの供給責任を果たしていける」(共同船舶の所英樹社長)と期待もかかる。日本の捕鯨業界にとって大きな一歩となった。

IWC脱退影響

一方で、肝心の鯨食文化そのものが低迷する状況が続くなど、依然として課題は多い。

近年のクジラの捕獲量減少に比例するように、鯨肉の消費量は少ない。水産庁によると、ピークである昭和37年の80分の1程度の3千トンにとどまっている。

2019年に国際捕鯨委員会(IWC)から脱退し、非加盟国となったことも大きい。これにより、IWC加盟が条件となる南極海での調査捕鯨はできなくなり、捕鯨がEEZの200カイリ内に限定されたからだ。

水産庁はIWC脱退時に「食習慣・食文化はそれぞれの地域におかれた環境により歴史的に形成されてきたものであり、相互理解の精神が必要」と表明したが、脱退が鯨食文化の高まりにつながっていないのが現状だ。

過剰な保護懸念

水産庁も手をこまねいているわけではない。令和7年度も「捕鯨対策」として例年と同等の約51億円の予算を編成。日本鯨類研究所や民間業者に補助金を支出するほか、持続的利用や鯨食普及の推進、関係国への働きかけを行うとしている。

一方で水産庁は、1月に更新した「捕鯨をめぐる情勢」と題するリポートで「鯨類を含むすべての水産資源は科学的根拠に基づき利用すべき」だとの基本姿勢を維持。科学的根拠に基づかないクジラ保護の論調が拡大されることで、マグロなど他の水産資源でも「過剰な保護」を求める声が大きくなることを懸念している。(藤木祥平)

縄文時代から脈々 欧米反対で一転

日本の鯨食の歴史は古く、縄文時代にまでさかのぼるとされる。日本捕鯨協会によると、この頃から沿岸に寄り付いたクジラを狩るだけではなく積極的に海で捕獲していた説もあり、骨も土器の「製造台」として活用されていたことが史跡などから分かっているという。

江戸時代後期になると、日本の近海で米国による捕鯨が盛んに行われるようになった。米国が捕鯨船の保護港を求めたことも、鎖国を続けていた日本に開国を促した一つの理由とされる。

米国などの乱獲によってクジラが激減し、日本の捕鯨は一時的に衰退を余儀なくされた。だが、明治期には船首に据え付けた捕鯨砲から銛(もり)を発射して捕獲するノルウェー式捕鯨を導入し、捕獲量も回復。戦後の食糧難では貴重な動物性たんぱく源として日本人の食を支えた。

一方で近年では、欧米などで反捕鯨運動が行われるようになり、状況は一変。日本は2019年、IWCからも脱退したが、捕鯨を続ける日本に対し、「シー・シェパード」に代表されるような海外の反捕鯨団体から、過激な抗議活動が続いている。

シー・シェパード創設者で、海上保安庁が逮捕状を取ったポール・ワトソン容疑者は昨年7月、給油で立ち寄ったデンマーク自治領グリーンランドで地元警察に拘束され、約5カ月間勾留された。このときも日本の関鯨丸の操業を妨害するためだったという。

日本のやり方説明し、堂々捕鯨を 生態系総合研究所代表理事の小松正之氏

畜産における家畜の飼料生産や排泄(はいせつ)物処理などは環境の汚染を招いているが、鯨肉や水産物は科学的に管理されれば環境負荷は極めて少ないといえる。地球環境保護や食糧安定供給の観点からも鯨類資源の持続的利用が必要だ。

しかし、国際捕鯨委員会(IWC)脱退に伴い再開された商業捕鯨は、現時点では商業として成立しておらず、補助金頼みとなっている。

非加盟国となったことでクジラの少ない200カイリの中に自分たちを封じ込めてしまった。これでは鯨肉の供給が少なくなって価格も高価になる。

反捕鯨国が言うような「クジラを殺すことは環境破壊だ」という主張は実態と真逆となっている。日本はそうした国の批判を恐れることなく、IWCに復帰し、国際捕鯨取締条約に基づいた調査捕鯨を資源の多い南極海や北太平洋で再開するべきだ。そのうえで科学的根拠に基づきながら獲(と)ったものを「ありがたくいただいている」という日本のやり方を説明し、堂々と捕鯨を行えばいい。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください