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まるで美術品…凜としたマス目の将棋盤 日本刀で漆を盛って線を引く秘技「太刀盛り」 くらしと工芸

産経ニュース / 2024年9月13日 8時0分

日本刀に付けた黒漆を、盤を斬るがごとく盛りつける(酒巻俊介撮影)

藤井聡太七冠らの活躍で新時代を迎えた将棋界。対局に欠かせない将棋盤には、数百万円の値が付き、美術品のように扱われるものもある。とりわけ漆を日本刀にのせて目盛りを入れる「太刀(たち)盛り」の技を用いた手作りの盤は、国内外の愛好家の垂涎(すいぜん)の的となっている。

東京都内から電車と車で1時間半。のどかな田園風景が広がる埼玉県行田市に、将棋盤・碁盤を作り続けて100年以上の吉田碁盤店が看板を掲げる。最高級の盤の材料となる榧(かや)の木が見守る門前で、同店の盤師、四代目吉田寅義さん(44)が迎えてくれた。

木と人が一体になって

盤師の仕事は、榧をはじめとする木材を吟味して盤材を切り出すところから始まる。樹齢300年以上の巨木の輪切りからでも、きれいな木目の盤はわずか数面しか取れない。

盤材をそのまま自然乾燥させること3~10年。程よく乾き、木材特有の反りやゆがみが出きったことを確認して、ようやく盤の制作に入る。

「盤の価値は木にあるので、いい木を使うといい盤ができます。木の価値を落とさないよう、全ての工程を人の手で丁寧に行います」

数百年かけて刻まれた木目の美しさを最大限に生かすため、吉田さんは一切機械を使わない。面の削りは手カンナ、脚の彫りはノミと小刀。そして、盤の生命線ともいえる目盛り入れは、太刀盛りで行う。刃を丸めた日本刀に漆を付け、盤を斬るかのごとく盛りつける。木の命に人の魂を吹き込む、まさに木と人が一体となる工程だ。

息もつかせぬ緊張感

射抜かれそうな鋭い目元に、引き結ばれた口元。神棚から代々伝わる太刀を下ろした途端、吉田さんの表情が変わった。

漆を練った台に太刀を根元から当て、漆をのせる。そのまま切っ先から真っすぐ盤面に当てると、漆が刃の反りに沿って少しずつ盤面に移る。漆が走るかのように線はのび、慎重に太刀を盤から離すと、盤上に光沢ある漆黒の直線が1本、残った。

呼吸するのもはばかられるほど、緊張感みなぎる作業を繰り返すこと20回。盤上に81のマス目が浮かび上がった。

「細くともくっきり見やすい線が出るのは、太刀盛りならでは。角が丸みを帯びているので、触り心地がなめらかなんです」。その言葉通り、線に指先を当てると吸い付くよう。寸分の狂いもなく真っすぐのびる漆黒の直線は、凜(りん)として限りなく美しかった。

一子相伝で守る匠の技

吉田家に伝わる「吉田流太刀盛り」の技は、選ばれし継承者ただ一人が代々受け継ぐ「一子相伝」の秘技。吉田さんは高校を卒業するとすぐ、父である三代目を師としてこの道に入った。しかしながら、「三代目と一緒に作業場に入って太刀盛りを教わったのは一度きりです」。以来今日まで、日々たった1人で作業場にこもり、ひたすら木と向き合い、漆の声を聞いてきた。

もっとも、吉田さんが腕を振るう機会は減りつつある。太刀盛りの技を使うような立派な盤の需要は限られているからだ。最近の同店の新規顧客はインターネットを通じて日本の職人技に興味を持った外国人が多く、国内の需要は「祖父や父の盤を再び使いたい」といった理由による修理が中心だという。

この現状に、吉田さんも手をこまねいているわけではない。数年前には、若い世代にもっと盤や盤づくりに親しんでほしいという思いを込めて、太刀盛りで線を引いたマス目デザインのコースターを試作した。「このように身近なものを入り口に、若い世代が盤づくりや盤師の仕事に興味を持ってくれればうれしいです」 (田中万紀)

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