夭折の洋画家・中村彝の復元アトリエ関連CFで目標額800万円超え 関係者「感無量」
産経ニュース / 2025年1月12日 11時0分
水戸市出身で、大正時代に活躍し、30代の若さで死去した近代日本を代表する洋画家・中村彝(つね)。その生前の仕事場を茨城県近代美術館(水戸市千波町)の近くに再現した「中村彝アトリエ」の環境整備のためのクラウドファンディング(CF)が昨年、実施された。結果は目標額の800万円を大きく上回り、「彝の魅力を再認識してもらういい機会となった」と関係者を喜ばせた。
樹木に覆い隠される
中村彝は明治20(1887)年生まれ。陸軍幼年学校を卒業するが、肺結核のため軍人を断念。療養中に画家の道を志し、大正13(1924)年に37歳で死去するまで実働19年で重要文化財に指定されている代表作「エロシェンコ氏の像」(大正9年)など約270点の作品を残した。
アトリエは、彝が制作に励んだ現在の東京都新宿区下落合の仕事場を茨城県近代美術館が開館した昭和63年、隣接地に復元したもの。彝の死後、同じ水戸出身の洋画家、鈴木良三らが故人の顕彰のため結成した「中村彝会」が寄付金を募り、茨城県へ提供する形でアトリエを再現した。
建物内部には彝が生前愛用したイーゼルやモデル用のソファといった遺品を展示し、美術館の営業日に無料で一般開放している。平成9年度には約6千人が訪れていたが、完成から30年以上が経過すると周辺に植えられた樹木がアトリエの存在を覆い隠すまでに育ってしまい、令和5年度の入場者は約1700人まで落ち込んでいた。
当初は伸び悩む
同美術館では彝の没後100年に当たる昨年11月から、所蔵する作品29点に全国各地の美術館や個人の所蔵作品などを加えた計約120点を展示する企画展を開催。併せて、アトリエ周辺の樹木の伐採や剪定(せんてい)といった環境整備の実施も決めた。
当初、環境整備は県の事業として行うことも検討されたが、アトリエを復元した際の中村彝会の方式を見習い、CFを立ち上げて資金を募ることを決定。美術館が事務局となり、パートナー企業など14社を加えた「茨城県近代美術館運営支援協議会」が実施主体となった。
金額は伐採や剪定などに必要な800万円を第1目標、さらに隣接するザ・ヒロサワ・シティ会館(茨城県民文化センター)に設置されている彫刻家、堀進二が制作した彝のブロンズ像をアトリエ近くへ移設可能となる1400万円を第2目標として設定した。
CFの募集期間は昨年6月17日から8月9日まで。当初寄付金は伸び悩み、800万円へ到達したのは7月下旬となった。その後はじりじりと金額が増え、最終的には1081万5千円が集まった。
うれしい誤算も
茨城県を中心に全国の個人や団体、企業が資金を提供。中には「彝の大ファン」という北九州市の女性個人から100万円という大口の寄付もあった。「アトリエが多くの人に愛される憩いの場になってほしい」「大切な資料や遺品が人の目に触れる機会がもっと増えれば」といった数々のメッセージも寄せられた。
〝うれしい誤算〟もあった。当初、400万円かかるとみられていた彝のブロンズ像の移設を県内在住の彫刻家の紹介による業者が格安で請け負ってくれることになり、移設工事は年明けの1月6日に行われた。残すはアトリエ周囲のケヤキの剪定と花壇の整備のみとなった。
茨城県の機関が初めてかかわったCFの成功に後押しされるように、美術館で今月13日まで開催中の「中村彝展」も昨年末、入場者が1万人の大台を突破した。
CFを実施した美術館運営支援協議会事務局長の金沢宏・同美術館副館長(59)は「みなさんの力強い支援のおかげで最終目標まで達成できたし、近代洋画を代表する中村彝を広く知ってもらい、思い出してもらう機会にもなった。感無量です」と喜びを語った。(三浦馨)
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