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小笠原で国産コーヒー豆栽培 戦前からの種活用「古くからのもの新しい人へ」野瀬農園

産経ニュース / 2024年6月17日 21時37分

小笠原産のコーヒー豆(野瀬農園提供)

東京都心から1千キロほど南にある小笠原諸島では国内では珍しいコーヒー豆の栽培が行われている。本土とは違う亜熱帯気候を生かし、明治時代に苗木が持ち込まれてから栽培が始まった。戦争によって20年以上も一般人が立ち入れない時期もあり、一度は栽培が途絶えたが、返還後に島民らが復活させ、島外にも苗木を販売するなど国産コーヒー豆の普及に貢献している。

明治期に始まった国産豆栽培

小笠原に日本人が定住したのは江戸時代後期。来航した欧米人が日本人になじみのなかった「コーヒー」を飲んでいたことで、その存在が知られたという。

明治9年に小笠原諸島が日本領として認められると、当時の政府は日本で珍しい亜熱帯気候を生かし、コーヒー豆の栽培に力を注いだ。6万本ほどの苗木をインドネシアから輸入し、政府が直接栽培するようになったという。

コーヒー豆の栽培は「コーヒーベルト」と呼ばれる赤道を挟んで北緯25度から南緯25度の範囲で、年間平均気温15~30度かつ年間降雨量1800ミリ程度が適地とされている。現在栽培されている小笠原諸島の父島は北緯27度だが、周囲が海に囲まれているため、暖かい空気が流れ込みやすく栽培が可能だという。

戦局悪化で栽培途絶える

栽培開始5年目で50キロほどの収穫に成功したが、生産に時間を要することや台風が多いことなど気象の問題で長続きせず、栽培計画は頓挫。政府が一部の島民にも木を分けていたことで父島での栽培はかろうじて続けられていたが、昭和19年、先の大戦で戦局が悪化し、島民全員が本土への疎開を強いられたため、小笠原でのコーヒー豆の栽培は途絶えた。

終戦後も小笠原諸島は米国領として統治され、帰島はすぐには実現せず、栽培には20年以上手が付けられていなかったという。

「私しかできないことを」

父島で生まれ育った4代目の野瀬昭雄さん(90)は戦前、他の農作物の傍ら、家の庭でコーヒー豆が栽培されるのを見ていたという。本土復帰5年後に単身で島へ戻ると、疎開前と同じ場所にこぼれた種から発芽したものを発見。昭雄さんは「大事にしなくては」と再び栽培しようと考えた。

現在、主に農園の運営を行う娘のもとみさん(55)は本土で生まれ育ち、都心の大手企業に勤務していたが、30歳のときに「私しかできないことをやってみたい」と退職して父島に移住した。

父とともにコーヒー豆の栽培を始めたが、当初は知識も経験もなく手探り状態。日本での栽培に関する資料は乏しく、インターネット上の海外サイトを、翻訳サイトを使いながら独学で調べたという。実践を繰り返して少しずつ作り方が定まっていき、数本だった木を最大1300本ほどにまで増やしていった。

さまざまな栽培方法を試したというが、隣り合った木でも異なった成長を見せることもあり、もとみさんは「まだ分からない部分が多い」と話す。それでも「自然にはあらがわない」と決め、無農薬で栽培を続けている。

さっぱりした味わい

小笠原での農作物の栽培には台風が大きく影響するという。野瀬農園は度重なる台風や大雨で地面に亀裂が入り、令和元年12月に広範囲で土砂崩れが発生した。コーヒー豆の木を300本ほど失うなど大きな被害が出た。

現在は、コーヒー豆だけで約800本、年に100キロほどが採れる。その他に温暖な気候と週に1度しかない船での輸送に耐えられる作物としてバニラビーンズなどのコーヒーに入れるスパイスの栽培も行っている。

野瀬農園のコーヒーはさっぱりした味わいが特徴といい、苦みが少なく、コーヒーが苦手な人でも飲むことができるといわれる。限られた人手で農園を運営していることもあり、コーヒー豆は主に年間300人ほどのツアー参加者に提供しているという。

コーヒー豆栽培を知って父島へ移住する人がいたり、本土の人に苗木を販売したりするなど島外にも国産コーヒー豆に関心を持つ人が増えつつあるという。もとみさんは「古くから長くやっていたことを新しい方々にも届けられることができた」と振り返る。ツアーの問い合わせは野瀬農園ホームページ(https://www.nosefarm.com/)まで。

(梶原龍)

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