おちょぼ口、奇面な魚「カワハギ」 皮を剥ぎ、艶やかピチピチの身を味わう ウエカツ流サカナ道一直線(91)
産経ニュース / 2024年6月21日 9時0分
カワハギは、読んで字のごとく「皮剥(は)ぎ」と書く。平たい体におちょぼ口、おでこにちょこんと小さな角(つの)を生やし、口から尻尾(しっぽ)の先までをざらざらとした皮が覆うので、これを剥がしてからでないと調理は始まらない。英語では「レザージャケット」すなわち「革(皮)の上着」と呼ぶところをみると、欧米は外観、日本はその先の〝食う〟に着眼した呼称であり、ここに民族性の違いが見えてくる。
ともあれ、一体こいつをどうやって食うのか、今に伝わる作法に至るには、紆余曲折(うよきょくせつ)の経験と伝承があったに違いない。それは近い仲間のフグも同じで、いわゆるふつうの〝サカナ型〟ではないややこしさがある。
まずおちょぼ口とおでこの角を切り落とす。口の方から皮に切れ目を入れ、そこから尻尾の方へ向けて皮を引っ張り、むいていくと、艶やかで張りのあるクリーム色の生身があらわとなる。
次に内臓だが、フグの仲間なので肝が大きく冬に太る。実はこの肝を味わうことこそ、カワハギを食う魅力の半分を占めるといってよい。ピリッと締まった白身と肝を合わせ食うことにより、この魚の食味の最大化が実現し、万人をとりこにするのである。その肝を傷つけないように腹を開いて取り出し、半分に切って水にさらして血を抜いておく。これで準備完了だ。肝をつぶして醤油(しょうゆ)に溶き、薄造りの身でネギを巻いて浸して食う「肝醤油」はもはや定番。煮れば肝から溶けだした脂が身にまわりコク深く、塩焼きにした身を箸でつまみ、同じく焼けた肝にまぶして食うのも実に乙。一尾こしらえてもあっという間に食べてしまう。平たいペラッとしたこの魚を食べ終えたとき、充足とともに一抹の寂しさがよぎるのが、カワハギの味でもあろうと私は思う。
希代の詩人、サトウハチローは、この魚を心象と重ねて、「鳴らない口笛」を吹く、「さみしい顔」とたとえた。姿は奇態であるけれど、日本人の感性をくすぐるにくい魚なのである。(ウエカツ水産代表 上田勝彦)
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YouTubeチャンネル「ウエカツ流サカナ道一直線」で動画を配信中。
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