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米国との緊密ぶり見せることが抑止力 話の肖像画 元駐米日本大使・藤崎一郎<5>

産経ニュース / 2024年9月5日 10時0分

海兵隊のパレード。土砂降りでも身じろぎせず隊員に評価された =2012年7月10日

《日本外交は、「ただ憂慮を表明するばかりだ」「価値観不在の事なかれ主義」「軍事忌避だ」などとも批判される。こうした声を、どう思われるか》

日本は民主主義、ルール重視の国であり、価値観ははっきりしている。「言うべきことを言え」とか言われるが、そんなことは当然やっている。それを公にするかだ。欧米の国々のように声高に、あるいは他国と組んで圧力をかけたりせず、静かに相手国の立場、メンツも尊重しつつ働きかける方が有効な場合が多い。

シンガポールの研究所が行っている東南アジア諸国連合(ASEAN)の有識者世論調査で、信頼できるパートナーとして日本が米欧を抜いてトップであることは、日本外交の評価を示すものと思う。その一方で、中国の信頼度は低い。

国家にとって大事な国益は、安全保障、経済的繁栄と国の尊厳だろう。このいずれも追求していかなければならない。どの国もこれらを追求するので、ときにお互いの尊厳がぶつかり合うこともある。その結果、ナショナリズムが高揚することもある。自らの立場を損なわず、その調整を行っていくことが外交の役割である。

留飲の下がる気分になる外交は中長期的には危ない。翻って考えてみると、いわば背伸びしない外交をやった典型的な事例は、日露戦争後のポーツマス条約を締結した小村寿太郎(1855~1911年)や、国際協調路線を打ち出した幣原喜重郎(1872~1951年)などの外交だ。彼らは当時、「軟弱外交」のそしりを受けた。

前に触れた私の高祖父で、初代内閣総理大臣の伊藤博文(1841~1909年)の外交姿勢がやはり背伸びしない外交であった。伊藤が背伸びしない外交の信奉者だったと知り、敬意を抱くようになった。

《日本は結局、米国の言いなりなのか、との声もある。さらに、日本は米欧とは異なる独自の道を歩むべきだ、そうしないと米欧の戦争に巻き込まれる、という人たちもいる》

その議論は戦後、ずっとある。朝鮮戦争のとき、安保改定のとき、湾岸戦争、イラク戦争のときにもずっとあった。しかし、実際には、日本は一度たりとも巻き込まれたことはない。

一方で、日本は、ロシア、中国、北朝鮮という3カ国と隣接している。主要7カ国(G7)でこの3カ国と隣接する国は日本だけ。

そんな3カ国と隣接しながら、日本をきちんと守っていくときに、本当に自前の防衛力だけで対処できるのか。米国なしに日本を守ることができるのか。スウェーデン、フィンランドも、米国の核の傘欲しさにあわてて北大西洋条約機構(NATO)に入ったばかりだ。

米国にとっても、アジア太平洋で海空軍、海兵隊がいるのはハワイ、グアムを除けば日本だけだ。日本の基地の価値は大きいはずだ。

《2009年、日米関係が沖縄の基地問題で揺らいだ》

このときに何が起きたのか。日米関係と直接、関係はないかもしれないが、10年、ロシアのメドベージェフ大統領が旧ソ連・ロシアの国家元首として初めて北方領土にやってきた。同年にはさらに、尖閣の海域で、中国漁船が海上保安庁の巡視船にぶつかってきた。12年には、韓国の李明博大統領が竹島に上陸してきた。

安全保障と外交については、基本的に言えないことが多い。米国とだって裏では、基地問題などで厳しいやり取りをしていることもある。貿易は、表でけんかしてもいいが、ロシアや中国、北朝鮮がじっと見ていることを考えると、安全保障で米国とやり合っているところを見せても何の得もない。つけこまれる隙を与えるだけだ。日米の緊密な関係を見せることが抑止力となる。(聞き手 内藤泰朗)

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