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いただく命に感謝 地域の情景伝える「生き物供養碑」を調査 滋賀・琵琶湖博物館

産経ニュース / 2024年12月23日 19時59分

供養碑にライトを当てて碑文の文字を読み取る大河原フィールドレポーター(左)と橋本道範学芸員=滋賀県東近江市

滋賀県立琵琶湖博物館(同県草津市)の「フィールドレポーター」と学芸員が、家畜や魚類などの死を悼んだ「生き物供養碑」の現地調査を進めている。これまでに存在が知られている滋賀県内46基の供養碑のほか、情報提供によって約10基が新たに発見された。来年1月末までの調査で、さらに見つかる可能性もある。碑文を手掛かりに碑の成り立ちを調べてみると、地域のかけがえのない情景がよみがえってくる。

世界的にも例なく

同館は身近な自然や暮らしに関する調査を担うフィールドレポーター制度を設けており、現在は210人が登録。金属や石に刻まれた文字資料(金石文)の中でも世界的にも例がないという、生き物供養碑が今年度の調査テーマとなった。

生き物供養碑は、東海大海洋学部准教授だった田口理恵さん(故人)が調査を行い、平成24年に著書「魚のとむらい-供養碑から読み解く人と魚のものがたり」で紹介したことで、広く知られるようになった。

田口さんの論文では全国1141基の存在が明らかにされており、これを基にした調査も合わせて滋賀県内の46基をリストアップ。県醒井養鱒場(米原市)の「小鮎塚」や、湖東・湖南地域の寺院に建立された、農耕や日清・日露戦争に使われた牛馬の供養碑などが含まれているが、それぞれの碑文を記録に残す詳細な調査は実施されていなかった。

今回の調査は10月中旬からスタート。干拓事業で生息地を奪われる生き物や、農業高校の家畜などの供養碑が新たに見つかった。

新技術で碑文判明

今月18日には、フィールドレポーターの大河原秀康さんや同館の橋本道範学芸員らが、東近江市の齢仙寺の境内隅に立つ「放生魚埋骨之処」と刻まれた供養碑を調査した。

新たに発見された碑の一つで、地元出身の近江商人・塚本源三郎が昭和初期に、門前の湧水池「鳰戸(におうど)霊泉」で死んだ魚の塚の前に建立したものだという。

情報提供した同寺の後藤慶裕住職によると、かつて湧水池では釣った魚の一部を放流し、いただいた命に感謝する風習があり、夏にはスイカを冷やすなど地域の憩いの場となっていた。

調査では「ひかり拓本」という技術を使って碑文をデータ化。さまざまな角度から碑に光を当て、影を撮影した複数の画像を合成する技術で、碑に紙を貼り墨を付けて転写する従来の拓本より素早く、くっきりと文字を浮かび上がらせることができるのが特徴だ。

奈良文化財研究所(奈良市)の上椙(うえすぎ)英之研究員が開発した技術で、昨年スマートフォン向けのアプリがリリースされ、誰でも利用することが可能になった。

データ化により、碑文の文字は「種々諸悪趣地 獄鬼畜生々老 病死苦以漸 悉令滅」と判明。調査に同行した地元の書道文化の博物館「観峯館」の寺前公基学芸員によると、「観音経」の一節だという。

情報提供呼びかけ

鳰戸霊泉は愛知川の伏流水の湧水で、上流にダムが建設されてからは自噴能力がなくなり、現在は揚水ポンプでくみ上げている。それでも、地元の料亭がコイやウナギを放つなど風習は細々ながら残っており、後藤住職は「食べ尽くすのではなく、おすそ分けをして命に感謝する放生の心を碑は伝えている」と話す。

橋本学芸員は「琵琶湖地域で暮らしていた人々が、どのように生き物と折り合いをつけてきたかが浮き彫りになってきている」と手応えを語る。大河原さんは「供養碑かどうかはっきりしないような碑でもいいので、気軽に情報を寄せてほしい」と呼びかけている。(川西健士郎)

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