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現場に赴き、迫真の物語に 「足で稼ぐ」気鋭の講談師・宝井琴鶴さん、市場開拓目指す

産経ニュース / 2024年6月19日 12時43分

横浜にぎわい座の「登竜門シリーズ」を卒業した講談師、宝井琴鶴さん=横浜にぎわい座(高久清史撮影)

かつて落語家の春風亭一之輔さんらも研鑽を積んだ大衆芸能の専門館「横浜にぎわい座」(横浜市中区)の「登竜門シリーズ」で、横浜出身の講談師、宝井琴鶴(きんかく)さんは神奈川県内各地にゆかりのある講談を口演して聴衆をうならせてきた。にぎわい座にその実力が認められて今年1月の8回目で卒業し、6月23日に卒業後初となる独演会を迎える。

登竜門シリーズでは回を重ねるごとに入場料の値段が上がり、その分、求められる話芸のレベルも上がった。卒業できない人もいるとされ、「プレッシャーの中で格闘し、自分にひとつの軸ができた」と振り返る。

中学生で講談修羅場塾に

物心がつく前から両親と親交のあった師匠の宝井琴星(きんせい)さんの講談会に連れていかれるなど、講談は身近な存在だった。小学生のころには国語の教科書の音読を先生から褒められるようになり、中学生になってから琴星さんがアマチュア向けに講談の指導を行う東京の宝井講談修羅場塾に入った。

中高年の男性たちの中でただ1人の女子中学生。吉原遊郭が現存していたころを知る高齢男性が吉原を舞台にした「紺屋高尾」を生々しく語るなど、人生経験に裏打ちされた話芸がそこにはあった。「品行方正な学校とは違い、刺激的だった」といい、発表会で高座を踏んだ。

高校の卒業に向けた課題研究のテーマも「講談」にし、前座や二ツ目にインタビュー。自らが将来、後輩になるとは思わずに「うまくなりましたね」と客目線で寸評することもあった。「今から思えば生意気でしたよね」。リポートは巻物状にして提出した。

当時は生業にしようとは思わず、大学卒業後、農業系の本を出す出版社に就職した。希望の編集部ではなく営業に配属され、原付きバイクに乗って農家を回った。本を買ってもらうためには会話を弾ませる必要がある。天気やクマ出没などの話題で糸口を探る中で「これは話芸だな」と思うようになり、気づけば話芸の講談で身を立てようと決意するようになった。

講釈師、見てきたような噓をつき-。針小棒大に語られる講談に対するシャレの一つだというが、大師匠である宝井馬琴(ばきん)さんからは「今の講釈師は見てきた上で、噓をつかないとダメだ」と言われた。琴鶴さんはインターネットで即座に調べられる時代に迫真性がある講談に仕上げるため、「足で稼ぐことを大切にしている」。物語の現場に赴き、地元の人の言葉に耳を傾ける。

昨年に没後60年を迎えた横浜出身の作家、長谷川伸の生い立ちを題材にした作品を自作した際は、日ノ出町にある記念碑の根元で昼寝をする高齢の男性を見かけた。「横浜のディープさを表していると考え、にぎわい座の高座で伝えた。お客さんに情景、空気感を感じてもらえたと思う」。

「芸と営業の両輪」

話芸の追求とともに力を入れているのが子供向けの講談教室、ワークショップ。東京、神奈川、静岡、鳥取などで自ら披露するだけでなく、参加者たちにも体験してもらう。現地に行く時間がないときは、オンライン会議サービスを使う力の入れようだ。「講談になじみがある世代が少なくなる中で、次世代のお客さんを育てないといけないという危機感がある」。

講談協会の動画配信も担い、慎重な先輩たちを説得しながら宣伝活動に力を入れる。「芸と営業の両輪で講談の市場を開拓し、後輩たちも活躍できる場を作りたい」。気鋭の講談師は業界の未来を見据えている。(高久清史)

たからい・きんかく 横浜市出身。平成18年4月に宝井琴星さんに入門し、同6月に前座となり宝井琴柑(きんかん)を名乗る。22年6月に二ツ目昇進、令和元年10月に五代目宝井琴鶴を襲名して真打昇進。今月23日に「横浜にぎわい座」で行われる独演会「宝井琴鶴 神奈川をよむ シリーズ第九弾」は午後2時開演、全席指定で入場料3200円。

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