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リニア対応で〝スピード感〟見せる静岡・鈴木康友知事、一部市町からは「ついていけない」

産経ニュース / 2024年8月13日 8時0分

「リニア中央新幹線に関する意見交換会」の終了後に記者団の取材に応じる大井川流域10市町の首長ら=7月23日、静岡県庁(青山博美撮影)

15年ぶりに静岡県の新しい知事となった鈴木康友氏がリニア中央新幹線静岡工区着工問題への対応で見せる〝スピード感〟が注目されている。静岡工区着工には、地元で「命の水」といわれる大井川の減水に懸念を示す流域市町の「納得」が必要だが、これまでは県が着工に「待った」をかけるなど、市町の意見を聞くまでもない状況が続いた。だが、鈴木知事が就任後に初めて臨んだ流域市町首長らとの意見交換会では、首長らから「あまりにスピード感があって流域はついていけない」との声も上がった。県内市町の調整という、静岡工区を巡る「次なる課題」が急浮上した格好だ。

就任後初の意見交換

7月23日夕方。県庁に大井川流域8市2町の首長らが集まり、鈴木知事との「リニア中央新幹線に関する意見交換会」が行われた。

リニア推進に向けて精力的に動く鈴木知事だが、流域市町首長とのこうした意見交換会は今回が初めて。忌憚(きたん)のない意見を聞くという目的もあり、会合自体は非公開だったが、終了後に鈴木知事や流域首長らが記者団の取材に応じた。

参加した首長からは、不安の声が多く聞かれた。その筆頭に挙げられるのは「情報不足」だった。

島田市の染谷絹代市長は、鈴木知事のスピード感ある行動に対し「いまでも『大井川の水が毎秒2トン失われる』と思っている市民がたくさんいる。あまりに急激な変化をどう理解したらいいのかわからない。丁寧な説明をお願いした」と話した。

市町側の不安と静岡市の注文

静岡工区の工事に伴う水資源の流失問題は、静岡県にとって当初から着工に向けた最大の懸念であり焦点だった。鈴木知事も記者会見などでは「大井川流域市町の理解が大変重要だ」との認識を度々示してきた。川勝平太知事時代から複数回にわたって意見交換会を開催してきたのも、流域自治体の理解を重視してきたからだ。

これまでは、ボーリング調査などで大井川が減水する場合には上流部の田代ダムの取水抑制で代替する「田代ダム案」などを巡り、県と市町の意見の違いが浮き彫りになっていた。「田代ダム案は(流域市町首長の)ほぼ全員が了承したが、県だけが認めなかった」(染谷市長)といった具合だ。

今回の意見交換会で浮き彫りとなったのは、県に対する新たな注文だ。中でも進(しん)捗(ちょく)などについて「丁寧な説明」を求める声が目立った。焼津市の中野弘道市長は「スピード感はあるが、われわれには情報が少ないのではないか」と述べた。

一方、今回は、これまで〝蚊帳の外〟に置かれてきた静岡市からも注文がついた。静岡市は大井川水系の利水団体で組織する大井川利水関係協議会の会員ではないが、大井川の源流部や静岡工区は同市内にある。 静岡市の難波喬司市長は7月24日、県に対して「(利水ではなく流域だというなら)静岡市も意見交換会のメンバーに入れて行うのが望ましい」と申し入れ、同26日の定例記者会見では「静岡市も流域市。なんで入っていないのか」と苦言を呈した。

県内の意見調整はある意味では始まったばかり。鈴木知事も、まずは丁寧な情報提供や情報共有とともに、静岡市も加えた議論を検討する意向を示すなど、寄り添う姿勢を表明した。

動く知事

鈴木知事が就任したのは5月末。以来、県の最重要課題の一つに位置づけるリニア問題に奔走してきた。

6月4日には国土交通省で斉藤鉄夫国交相と面会。斉藤氏は「大臣になって2年半たつが、静岡県知事がこの部屋(大臣室)に来るのは初めて」と応じた。

翌5日には県庁でJR東海の丹羽俊介社長と意見交換。JR東海が議論のテーブルにさえつかなかった東海道新幹線の静岡空港新駅について、丹羽氏から「いろいろ課題はあるが、静岡県の考えを受け止めながら、対話をしていきましょう」との発言を引き出した。

さらに、同7日には山梨県の長崎幸太郎知事と面会し、山梨側で行われているリニア中央新幹線のボーリング調査の視察を決める。その数時間後、リニア中央新幹線の早期開業を目指す期成同盟会の総会に出席。ここでは空港新駅設置の要望が取りまとめられた。この時点で、知事就任からまだ10日ほどしかたっていない。

同18日には山梨側の静岡県との県境付近で行われるボーリング調査や工事を条件付きで認める〝三者合意〟をJR東海、山梨県と結んだ。リニア推進という点では、まさに次の段階に向けたスタートダッシュだった。

浮き彫りになった課題

7月23日の意見交換会では、多くの首長が丁寧な説明など「情報共有」のほかに、「国の関与」や「(問題発生時の)JR東海による補償」を求めた。「データを提示されても、専門家ではないので判断が難しい」「将来にわたる長い期間の中で問題が起きないともかぎらない。そのあたりを担保するものがないと判断できない」との声も聞かれた。

これについては、鈴木知事も「補償のあり方についてJR東海や国と文書を交わす」との方針を示した。ただ、具体的な補償などの議論はこれから進めていくことになる。

半面で、保守系の県議は鈴木知事について「スピード感はあるが安全運転に移りつつあるのではないか」との見方を示す。川勝前知事は「安全運転」とはほど遠かっただけに、関係者は鈴木知事の行動を注意深く見守っている。

意見交換会で改めて明らかになったように、市町との調整など課題は多く残されている。国やJR東海と戦う県の姿がクローズアップされてきた川勝知事時代には、県内市町との調整が置き去りにされてきた面もある。これからが本番だ。(青山博美)

大井川利水関係協議会 大井川水系の利水関係者で構成する団体で、規約では「中央新幹線建設における水資源の確保及び水質の保全等について、流域の関係者が一体となって対応する」とある。会員には島田市や藤枝市、川根本町など大井川流域にある8市2町(10市町)の首長のほか、水道事業者、製紙会社なども名を連ねる。ただ、市内に大井川の源流部やリニア中央新幹線静岡工区がある静岡市は含まれていない。

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