「長く、大切に」思考は若者にも 共感集めるフェラガモの職人技とクリエーション 伝統と革新
産経ニュース / 2024年5月9日 9時30分
1927年にイタリア・フィレンツェで創業した高級ブランド「フェラガモ」。伝統の職人技とデザイン、上質な素材を融合させ、シューズやバッグなどの革製品を中心に世界的な支持を集める。国内59店を展開する日本事業を率いるフェラガモ・ジャパン代表取締役社長の小田切賢太郎さんは、他のアパレルブランドとは一線を画す魅力を語る。
「創業者のサルヴァトーレ・フェラガモはデザイナーであり、靴職人でした。だから、『メード・イン・イタリー』の技術や品質の高さを象徴し、発展させてきた先駆者の自負があります。いまも主な商品を自社工場でつくるマニュファクチャラー(生産者)です」
1世紀近く続く歴史のなかで、ワイドなリボンが目を引くシューズ「ヴァラ」など名作モデルが誕生。ラグジュアリーと呼ばれる高級ブランド業界で確固たる地位を築き、世代を超えて愛されている。
「『一生モノ』『もったいない』という言葉が象徴する日本人の精神は、高品質の商品を届ける企業姿勢と合致します。その価値が見直されて、若い世代にもラグジュアリーブランドを長く、大切に使う動きが広がっています」
継承された職人技が生む変わらない価値を
サステナビリティー(持続可能性)に敏感な消費者が増え、ファッション産業は変革を迫られている。フェラガモは2017年、「サステナビリティ・プラン」を導入。毎年目標を見直しながら、プラスチック製パッケージのリサイクル素材への移行などを進める。
何より持続的であり続けるのは職人技だ。「フェラガモの特徴は産業や技術のサステナビリティー。多くの職人を抱えているので、早くから熟練技の継承に取り組んできました」
販売が中心の国内では、ファッション業界に携わって培った自らの経験を大学や専門学校で伝え、ときには中高生にも仕事の魅力を説き、後進の育成に尽力する。
「ラグジュアリーブランドは英語が必須などと思われていますが、そんなことはありません。職種も販売からマーケティング、売り場づくり、人事、経理まで豊富です。若い世代にいろいろな可能性を示していきたいと思います」
女性リーダーの大きな存在
フェラガモの最新のサステナビリティ・プランは、ダイバーシティー&インクルージョン(多様性と包括性)への支援を一つの柱に掲げる。背景にはSDGs実現への機運に加え、ブランドの歴史を築いた一人の女性の存在がある。
「1960年にサルヴァトーレ・フェラガモが世を去った後に、事業を引き継ぎ、社長に就任したのが妻のワンダでした。当時としては画期的な女性のリーダーで、いまでもイタリアでは称賛を集めています。だから、性別にかかわらず活躍できる環境が根付いています」
フェラガモ・ジャパンでも3月の「国際女性デー」にあわせ社内交流のイベントを開くなど、啓蒙(けいもう)活動に取り組む。同社の管理職に占める女性の比率は30%。国籍や年齢も多様な環境づくりを社内で進める。その原点は、社会人リーグでもプレーしたラグビー選手時代の経験にある。
「新卒で入社した伊勢丹(現・三越伊勢丹)の3年目に、チーム強化のためニュージーランド選手が加入しました。最初は驚きましたが、ともにプレーして彼らの日本への憧れなどを聞きました。ラグビーは国籍に関わらず日本代表チームに入れるように、社会もダイバーシティーを受け入れる環境が当たり前になります。だから、学生への講演ではグローバルな視点を早くから身につけるよう伝えています」
(聞き手 会田聡)
おだぎり・けんたろう
昭和38年生まれ。伊勢丹(現・三越伊勢丹)やセリーヌ ジャパン、バーバリー・ジャパンなどを経て令和4年11月から現職。
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