増えるシニアのアルコール依存症 孤独や不安…高齢者は「酔いやすい」 100歳時代の歩き方
産経ニュース / 2025年1月19日 9時0分
飲酒抑制がきかなくなるアルコール依存症に陥る高齢者の増加が懸念されている。孤独な時間を埋めようと、軽い気持ちで始めた飲酒が慢性化してしまうケースは少なくない。高齢者の体は若い頃と比べ、アルコールの影響を受けやすい。多量飲酒は生活習慣病の発症リスクを高めるともいわれ、専門家は警鐘を鳴らす。
穏やかな性格が
昨年末、千葉市内でアルコール依存症の自助グループが開いた断酒会。参加者の中に、依存症となった夫を支えた女性(59)の姿があった。
女性の夫は勤務先を63歳で退職。フリーランスとなって在宅中心の生活になると、次第に飲酒量が増えていった。夜中に目が覚めるようになり、飲酒してから眠りにつくように。以前は仕事終わりに飲酒していたが、日中も酒に手が伸びるようになった。
「フリーで仕事をするプレッシャーが、酒に向かわせた側面もあったのだと思う」と女性。穏やかな性格だったが、突然怒り出すようになり、ベッドの上で飲酒に明け暮れるようにもなった。
食事もせず飲酒を続けるため、がりがりに痩せ、歩くこともままならない状態に。専門の病院に連れていき、退院後は2人で断酒会に通い始めた。それから約4年。酒を一滴も飲むことなく過ごした夫は昨秋、腎盂がんで亡くなった。
悪夢のような日々に終止符を打ち、静かな最期を迎えた夫。断酒を貫いてくれたことに、女性は「救われた」と明かした。
生活の変化から
高齢者の多量飲酒は、生活環境の変化がきっかけとなることが多いとされる。
国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県)ではアルコール問題で受診する高齢者が増加傾向で、65歳以上の受診者は約30年前と比べて女性が約2倍、男性が2~3倍に増えた。同センター臨床研究部の横山顕部長は「定年退職後に時間を持て余したり、配偶者との死別で孤独に陥ったりする中で、飲酒が増えていくケースが多い」と話す。
横山氏によると、高齢者の体は脂肪が増えて筋肉が落ち、ため込める水分量が少なくなった状態だという。少量の飲酒でも血中のアルコール濃度が上がり、酔いやすい。
また、加齢で脳が萎縮し始めている中での飲酒は、強い酩酊を引き起こして転倒や失禁、暴言などの事態を招きやすい。多量飲酒はけがの誘発だけでなく、骨密度を低下させ、認知症やがんの発症リスクも高めるという。
厚生労働省は生活習慣病リスクを高める飲酒量(1日当たりの純アルコール量)は「男性が40グラム以上、女性が20グラム以上」との見方を示している。20グラムはビール中瓶1本相当だ。
横山氏は「飲酒量を減らせない、酒を飲まないと不眠やイライラなど離脱症状が出るといった人は専門の医療機関で治療が必要だ」と説明。「受診のハードルが高いと感じる場合は、近隣の保健所への相談から始めてほしい」と呼びかける。
続く断酒との闘い
アルコール依存症の治療には断酒が必要となるが、本人の力だけで継続は難しい。そんな患者らを支えるのが断酒会だ。
断酒会はアルコール依存の経験者らが各地で開催。体験談を1人ずつ語っていく形で進められるのが一般的だ。全日本断酒連盟副理事長の宮田由美子さん(75)も断酒会に支えられる1人だという。
生きづらさを抱え、20代の頃から次第に飲酒量が増え、幻聴・幻覚を見るまでになったという宮田さん。2人の子供を抱えながら入退院を繰り返してきたが、37歳で断酒を決意。以来、その誓いを守り続けてきた。
当初は断酒会に行くことに抵抗もあったが、仲間同士で弱さをさらけ出すことで互いに励まされ、時に揺るぎそうになる断酒の決意を積み重ねてこられたと明かす。
ただ、断酒会の参加者の中には再び飲酒を始めたり、心身の状態が悪化したりして姿を見かけなくなる人もいるという。「飲酒すれば依存症は再発する」。宮田さんはそんな危機感とともに、今も自分との闘いを続けている。(三宅陽子)
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