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「金ちょうだい」飲み代欲しさに強殺未遂 少年に道を誤らせた母親の「正論コントロール」

産経ニュース / 2024年12月20日 8時0分

「おっさん、金ちょうだい」。大阪市内の公園で60代男性に声をかけた少年=当時(17)=は、男性が応じないと見るや顔を殴り、包丁で腰と太ももを刺した。「犯罪とも思っていなかった」。男性に大けがをさせ、強盗殺人未遂罪などに問われた大阪地裁の法廷で、少年はこう供述した。なぜ後先も考えず、安易に重大犯罪を起こしたのか。背景として浮かび上がったのは、わが子を思うあまり「正論」を振りかざしてきた母と、息子の確執だった。

事件が起きたのは令和5年12月15日の午後7時過ぎ。少年は暴行の末にかばんを奪い、財布から現金約1万3千円を抜いた。この日、心待ちにしていた友人との飲み会を前にして金がなく、「何をしてでも用意する」と思い立ったのが動機だった。

少年事件のため、裁判は傍聴席から被告が見えないよう遮蔽板を立てて行われた。少年は今月2日の初公判で「殺すつもりはなかった」と殺意を否認したが、行為自体は認め、審理時間の多くは成育歴の解明にあてられた。

幼いころは英才教育も…

教育熱心な家で育ち、幼稚園では英才教育を受けるなど「親の期待に応えて頑張っていた」(母親)。しかし、母親が働きながら大学院に進学し、深夜まで祖母宅に預けられるようになった小学校高学年以降、状況は雪だるま式に悪化する。

家に置いてある現金を盗むようになり、中学生になると不良グループに加わった。手を焼いた両親は少年を児童福祉施設に預けたが、卒業後は別の不良グループを結成してけんかに明け暮れ、一時少年院にも入った。大阪・ミナミで客引きをしていた頃に「半グレ」や暴力団組員と関係を持ち、暴力団抗争に参加したこともあったという。

なぜこうなったのか。日常的に暴力を振るった父親の存在もあるが、少年やその家族と面接を重ね、心理鑑定を行った臨床心理士の証人は「非行の根底には母親に対する悲しみ、うらみ、報復があった」と証言した。中でも母親による「正論コントロール」が与えた影響が大きかったという。

例えば、金を盗んだ人に「それは泥棒。絶対にするな」と言うのが正論。その内容は正しい。それゆえ反論は許されず、言われた側は否定されて終わる。

小学生で「ものごと考えるのやめた」

ただ、この臨床心理士によると、子供の非行は親を試すSOSのサインでもある。まずは気持ちに寄り添って話を聴くという向き合い方が望ましいが、それをせず正論で押さえ込んでしまうと、子供は「助けを求めても無駄」「悪いのは自分」と思い込む。被告の場合は、小学生のときに「ものごとを考えるのをやめた」という。

もちろん母親の行動は、子供を立派に育てたいという気持ちの表れだった。非行に悩んだ母親は子供との接し方を学び、事件前にも建設業で働く少年に毎日のように連絡し、褒め、励ますなどして支えていた。

しかし、結果的に事件の引き金となったのは、やはり「正論」を伝えた母親のLINE(ライン)のメッセージ。手元の金を使い切り、4日間ほぼ水だけで過ごした少年は、友人との飲み会だけは行こうと、給料を管理する母親に「働いた金を渡して」と頼んだ。

母親は浪費を懸念し「現実を見つめて。遊びたいのは分かるけど、もう大人なんやで」などと突っぱねた。その後事件は起きた。

母親「本当に大事」少年「嫌いやけど、好きです」

「(幼い頃から)間違ったメッセージを送って傷つけ、大人への信頼を奪ってしまったのかな。本当に大事に思っているということだけは伝えたい」。法廷で声を震わせた母親に対し、少年は別の日の公判で「お母さんは嫌いやけど、好きです」と複雑な心情をにじませ、こう応じた。「僕はここから変わっていくしかない。頑張るんで、お母さんは自分の人生をみて幸せになってほしい」

13日の判決公判で、伊藤寛樹裁判長は犯行に影響した少年の性格が「成育歴に根ざしているとうかがわれる」と指摘した。「殺意があったと認定できる」として強盗殺人未遂罪の成立を認めつつ、「母親や心理士らと接見を重ね、反省を深め、成長しようとする様子も見て取れる」と述べ、懲役9年(求刑懲役14年)を言い渡した。(西山瑞穂)

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