増加する現金の落とし物、過去最多の228億円 進展するキャッシュレス社会の七不思議
産経ニュース / 2024年6月18日 10時0分
昨年、全国の警察に拾得物として届けられた現金は約228億4千万円。前年から約17億円増え、統計の残る昭和46年以降で最高となった。兵庫県内では過去2番目に多い約9億9700万円が届けられたが、このうち落とし主が見つからないなどの理由で、県の収入となった金額は過去最高に。キャッシュレス化が進み、現金を使う機会が減ったと感じている人は多いだろう。にもかかわらず、なぜ現金の落とし物は増えているのか。落とし主が見つからないのはなぜか。背景を探ると、現代特有の事情が浮かび上がってきた。
財布は手放せない?
兵庫県警会計課によると、昨年の兵庫県内の現金の拾得件数は約81万3千件。1日あたりでは約270万円の現金が落とし物として警察に届けられている計算となる。
全国でみると、バブル崩壊後に一時的に減った時期はあるが、全体として増加傾向にある。平成20年には約142億円だったが25年には約156億円、30年には約191億円。新型コロナウイルス禍で一時下がったものの、令和4年には約211億円と再び増えている。
高齢化社会が進んだり、携帯電話やスマートフォンの普及によって所持品などへの注意が散漫になったりすることで、落とし物自体が増えているとの指摘がある。その中で現金も増加傾向にあるのは、キャッシュレス化が進んでも財布を手放せない人が多いということのようだ。
「キャッシュレス決済比率が100%近い状態でなければ、現金を持ち歩かないのは難しい」。キャッシュレス化に詳しい東洋大経済学部の川野祐司教授はこう話す。
経済産業省などによると、日本全国でのキャッシュレスでの決済比率は4割程度。一方、韓国や中国は80%台から90%台のキャッシュレス決済比率となっている。ただ、川野教授によると、こうした国でも念のため現金を持ち歩くという人は一定数いるという。
個人情報知られることを敬遠
拾得届のあった現金は3カ月たっても落とし主が現れなければ、拾得者に権利が渡り、さらに2カ月を過ぎると都道府県のものとなる。
兵庫県ではその金額が昨年、約1億4千万円で過去最高となった。背景にあるとみられるのは、個人情報への意識の高まりだ。
現金を拾った場合、落とし主が見つかれば、拾った人は遺失物法に基づいてお礼がもらえる。お礼の額は拾得額の5%~20%で、当事者間で話し合うことになる。
このため、警察は現金を届けた人から名前や連絡先を聞くが、最近は相手に個人情報が伝わるのを嫌がり、拾得届を出した段階で権利を放棄する人は多いという。このため、落とし主が見つからなかった場合に拾得者ではなく、都道府県に入る金額が増えているというわけだ。
各種カードはスマホで管理
その落とし主も、現代ならではの事情で見つかりにくくなっているという。
免許証やポイントカード、クレジットカードと一緒に現金を落とした場合、落とし主が名乗り出なくても、銀行の照会などを通じて落とし主に連絡が届くことがある。また、落とし主が警察に遺失物届を出した際、落とし物の中に個人が特定できるものがあれば、警察のデータベースなどで該当するものがあるかが分かりやすい。
しかし、最近はクレジットカードやポイントカードをスマートフォンで管理することが増え、カードレス化が進んだために特定しづらい傾向もあるという。
7月からは新紙幣が導入される。対応できない機械もあり、キャッシュレス化が一層進むのではないかという見方もある。ただ、日本でみんなが現金を持ち歩かなくなり、現金の落とし物がなくなるほどのキャッシュレス社会が実現するのは少し先の未来になりそうだ。(西浦健登)
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