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「あの時に帰りたい」…缶コーヒーから始まった汚職 ゼネコン出身公務員のモラルと悔悟

産経ニュース / 2024年5月20日 8時0分

職員の逮捕を受け、謝罪する兵庫県幹部ら=令和5年10月、神戸市中央区

「帰れるならあの時に帰りたい」。兵庫県の外郭団体「兵庫県道路公社」の発注工事を巡る贈収賄事件で、収賄などの罪に問われた県土木部総務課の男性元主査(39)に対し、神戸地裁は4月、有罪判決を言い渡した。公判で、公務員としてあるまじき行為を犯した過ちについてこう悔やんだ元主査。県庁内で優秀と評価されたゼネコン出身の職員がはまってしまった陥穽(かんせい)とは何だったのか。

「脇が甘い」見抜かれた瞬間

時計の針を戻せるなら戻すべきは、この瞬間だったかもしれない。公正が保たれるべき公務員と業者との関係が揺らいだのは、ほんのささいな出来事がきっかけだった。

元主査は大手建設会社を経て、経験者採用枠で平成26年4月、兵庫県に入庁。令和2年4月に、兵庫県道路公社の播但連絡道路(同県姫路市~朝来市)管理事務所へ派遣され、道路の維持管理や補修工事の設計や積算などに従事していた。当時の道路公社幹部は元主査について「(土木工事の設計・積算に関する)知識、技能に優れ、コミュニケーション能力が高く、円滑に業務を進めていた」と評価する。

同事務所に派遣された同月ごろ、元主査が出会ったのが、同公社の元請け先の土木会社「松本組」(朝来市)から下請けとして工事を請け負っていた同「構造メンテ」(神戸市)の営業担当者(67)だ。

公判でのやりとりによると、当時同事務所に出入りしていたこの営業担当者は、購入した缶コーヒーを手渡した際、元主査の収賄適正についてこう嗅ぎ取ったという。「缶コーヒーを抵抗なく受け取った。公務員としては、脇が甘い」

1年後に越えた一線

神戸地裁は4月22日、収賄や官製談合防止法違反などの罪で、元主査に対し、懲役2年6月、執行猶予5年、追徴金約86万円の判決を言い渡した。また、飲食接待を繰り返したとして、贈賄や公契約関係競売入札妨害などの罪で、構造メンテの営業担当者に懲役2年、執行猶予4年、同社役員の男(49)に懲役1年、執行猶予3年、松本組の元役員の男(41)に懲役1年4月、執行猶予3年の判決をそれぞれ下した。

判決によると、元主査は、令和4年4月~昨年9月までの間、県発注の道路維持修繕工事に絡む一般競争入札で、工事価格などを漏洩(ろうえい)。公正な入札を妨害した上、業者側から飲食接待などを受けた。

この老獪(ろうかい)な営業担当者に目を付けられたのが、元主査にとっては運の尽きだったのかもしれない。缶コーヒーを受け取って以降、再三にわたってこの営業担当者から食事の誘いを受けることになる。当初は、「社交辞令だと思って、はぐらかしていた」「収賄にあたることは認識していて(食事には)行けない」と自重していた元主査。だが、日付を指定して食事に誘われるようになり、営業担当者との出会いから約1年後の3年3月ごろ、一線を越えた。

食事代は割り勘すれば大丈夫だと思っていたという元主査は「元請けではないし、直接的な契約関係ではないという甘い認識だった」と述懐する。

「拒むと表に出る」公示価格教える

その日は、てんぷら屋へ行き、その後、スナックをはしごした。店に同席していた構造メンテの役員から、罪となったのとは別の入札工事について尋ねられると、元主査は躊躇することなく、大まかな工事価格を教えたという。泥酔しており、2件目の会計以降は記憶すらない。ただ、代金は支払わなかった。

この時点ではまだ引き返せたかもしれない。営業担当者に無理やりにでも自らの飲食代金を渡すことはできたし、会社の事務所へ現金を送りつけることもできた。しかし-。

元主査が後日、金を支払おうとすると、営業担当者はこう突っぱねた。「経費で払っているから出さないで」

その後、この入札工事の工事価格を教えるよう営業担当者から頼まれると、元主査は、正確な入札情報を伝えた。このときの心境について「変に拒むと、(金を払ってもらったことが)表に出ると思った」と振り返る。

酒席が好きだった元主査は以降、業者とのずぶずぶの関係を深めていく。その後も接待を受け続け、居酒屋や大阪・北新地の高級クラブなどでともに飲食。そのたびに店をはしごしては泥酔し、その後のホテルの宿泊代や車の給油代まで業者側に肩代わりさせていた。

飲食する際は上司らと情報共有を

兵庫県警の捜査などによって判明した接待は、4年4月~昨年9月まで計57回にわたり、総額約86万円にも上った。

元主査は自らの過ちについて「最初の一回を行ってしまったがために、ずるずると行ってしまった。帰れるならあの時に帰りたい」と吐露した。

元主査は昨年11月、県から懲戒免職処分を受け、退職後は物流関係のアルバイトをしている。長年携わってきた愛着のあるはずの土木関係の仕事について、「(今後は)関わりたくない。土木関係以外の仕事をする」と話しているという。

官製談合の問題について詳しい上智大法学部の楠茂樹教授は、1度機密情報を漏らしても発覚せずに問題とならなければ、「2度3度となる心理状況になりやすい」とし、「最も安い価格で工事をしてもらうこと自体は悪いことではないと考え、公私混同してしまうのではないか」と業者側との関係の危うさをこう指摘する。

その上で「ほかの業者はこうした(癒着の)状況が分からないまま落札できないことになり、入札の公正さは失われる。本来は平等に競争すべきだ」とし、「公務員が業者と飲食をともにする場合は、上司ら他の職員と情報を共有し管理すれば、接待を防ぐことはできるはずだ」と話している。

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