ビジネススキルも身につく異色サッカークラブ 公式戦には出ず屋台運営で子供の自主性育成
産経ニュース / 2024年11月11日 11時0分
サッカーだけでなく、夏祭りでの屋台運営を通じてビジネスを実践的に学ぶことができる異色の少年サッカークラブがある。岡山市中区を中心に活動する「FC GranSeed(グランシード)」。「教育と普及」に特化し、大会での勝利といった結果のみを追わず、楽しんでプレーしてもらうため、公式戦にはあえて出ない。代表で監督を務める佐々木祐介さん(35)は「サッカーの上達とともに、子供たちが社会に出てから役に立つこと、人間的な成長を応援できるよう全力を尽くしたい」と語る。
ほめて伸ばす
クラブには未就学児から小学生まで約130人が在籍し、拠点の岡山市立幡多小学校のグラウンドでは週2回、練習を行う。練習では一つ一つの動きに、大学の現役選手を含むコーチが「今の、いいね」と、すかさず声をかける。1つの練習が終わるたびに集合し、各コーチが「コースを読んで先に動けていた」などとほめる。
学年や本人の希望などをもとに分けられた各カテゴリー(クラス)の月間MVPを表彰するが、「練習に臨む態度や技能を伸ばすために努力した姿が評価基準」(佐々木さん)となる。
小学6年の佐伯風輔さん(12)は「あいさつをしっかり、物を大切に、といった基本的なことをサッカーを通じて教えてくれる」と喜ぶ。保護者からも「技術面の指導も充実していて楽しく続けられる」と好評だ。
苦い経験から
公式戦に出ないのも特徴だが、背景には佐々木さんの苦い経験がある。
ルールもよく分かっていない状態で中学のサッカー部に入部した佐々木さん。「身体能力に任せたやり方で高校で壁にぶつかった。早いうちからの基本的な技術の習熟や周囲を見渡せる広い視野、戦術眼の習得が重要だと痛感した」という。
大学時代にアルバイトで少年サッカークラブのコーチを始め、卒業後も継続。地元に戻って平成29年にグランシードを創設した。1年ほど続けたところで、「競争や勝負事が苦手な子供、自分のペースで楽しみたい子供もいるので、1つぐらいはこういうクラブがあってもいい」と考え、大会での勝利至上主義ではなく、自主性を重んじるようなクラブを目指した。
公式戦には出場しないものの、クラブ主催のリーグ戦やカップ戦を積極的に行っている。実戦経験が積め、公式戦に近い緊張感や負けた悔しさを味わえる。小学3年の古山翔琉(かける)さん(9)は「負けても気持ちを切り替え、敗因を話し合うのがためになる」と話す。
試合は自由参加で、1カ月以上前に日程を発表する。佐々木さんは「人間的な成長を考えると、旅行など家族のイベントや他の習い事も大事にしてほしい」と説明する。
実体験で学ぶ
令和2年頃からサッカーの指導とともに、ビジネス教育も行っている。子供たちと接するうち、「社会で活躍できる大人になって、幸せになってほしいとの思いが強くなった」と佐々木さん。自身のクラブ運営経験を踏まえ、「ビジネスの基本なら教えられるのでは」と考えた。新型コロナウイルス禍の最中だったこともあり、年金や金利の仕組みを分かりやすく教えるといった子供向けオンライン授業を始めた。
そんな中、地元の備前国総社宮(岡山市中区)の武部一宏宮司から「夏祭りに子供を集めて盛り上げてほしい」と相談され、「神社を好きになってもらうには仕掛け人にするのが効果的」と判断。屋台の自主運営を提案した。
「お店屋さんごっこではなく、実体験でビジネスを学ばせたい」(佐々木さん)と、ビジネス講座を開き、損益分岐点や原価計算、事業計画の立て方などビジネスの基本を教えた。
屋台の自主運営を始めた4年の希望者は5人だったが、3年目の今年は22人に増え、くじ引きやダーツ、輪投げなどの屋台を営んだ。
今年からは岡山市のスタートアップ支援拠点の協力を得てプレゼン形式での報告会が加わった。1グループ5分の持ち時間で、屋台の説明や収支報告、運営の総括、参加の動機、全体を通して学んだことを発表した。
参加した6年の竹内健勇さん(12)は「いい経験になった。大人になってからビジネスでこうやればということが学べた」と満足そうな表情。佐々木さんは「全員がプロ選手を目指すわけではないので、いろいろな子供の受け皿となり、優秀な社会人を多く輩出できれば面白い」と話している。(和田基宏)
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