燭台、高坏…廃棄仏具がアーティストの手で「輪廻」 海外へアート作品として再販売
産経ニュース / 2024年12月5日 8時0分
核家族化の進展など生活形態の変化を背景に、昔ながらの大きな仏壇のある住宅が減る中、岡山市北区の仏壇仏具店「照泰仏堂」が、廃棄される予定の燭台(しょくだい)や高坏(たかつき)などさまざまな仏具を、芸術家の手でアート作品に生まれ変わらせて海外で販売するプロジェクトに取り組んでいる。10月には同市内で初めての展示販売会を開催。同店の幡司剛成(はたし・たかのり)社長(47)は「再生することで仏具への関心が高まり、ご先祖さまに手を合わせることの大切さを再認識してもらえたら」と話している。
イメージを一新
金魚が泳ぐ朱色の高坏に、色とりどりのドットが描かれたおりんなど、仏具のイメージを一新する作品がずらりと並ぶ。
10月下旬に照泰仏堂と関連会社の「tsunamusu」が開催した展示販売会。その名も「RinNe(輪廻(りんね)) 生まれ変わる仏具たち」。趣旨に賛同した岡山県内の芸術家13人と、ハンディキャップアーティストがいる障害福祉サービス提供企業1社が、仏具を再生した置物やアクセサリーなど約200点を出品。出品者の中には女子中学生も含まれていた。
出品者のひとり、Ayanoさんは、メヘンディ(ヘナアート)というボディーペインティングの芸術家で、ヘナという植物のペーストで肌に繊細な絵を描く。その技法を用いて、燭台や高坏にアクリル絵の具で金魚や鳥、チョウなどの絵を描いた。「仏具もメヘンディもインドにゆかりがある。朱色の高坏から金魚鉢をイメージして金魚を描いた。仏具は職人が心を込めてつくった芸術品で、廃棄はもったいない」とAyanoさん。
インテリア用に朱色や白で着色した香炉などを出品したmirokuさんは「外国人の日本への興味は強まっているが、一般家庭の仏具はまだ知られていないので喜ばれると思う」と話した。
幡司社長は「芸術家には廃棄される運命の仏具に新しい命を吹き込むところに興味を持っていただいた」と意義を強調。「同じ仏具を題材にしても、アーティストによって『かわいい』『かっこいい』など、印象が全く異なる作品になる」と仏具アートの魅力を語る。
会場で作品に見入っていた岡山県倉敷市の保育士、真鍋順子さんは「仏具は亡くなった方のイメージ、負や陰の印象を帯びているが、作品からは明るい陽の浄土のイメージが伝わってきた。新しい命が吹き込まれた感じだ」と感想を述べた。
技術の存続危機
高齢者と同居しない核家族化などの影響で、若いうちから先祖供養を尊重する体験のない人が増え、昔ながらの仏壇がある家が減少傾向にある。
「マンションなどの集合住宅に住む人が増え、親の家から子供の家に仏壇を移そうにも間取りが合わず、設置場所がなく廃棄が増えている」と幡司社長。「仏壇が売れないから職人の減少、高齢化、後継者不足という悪循環に陥り、技術の存続危機だ」と危惧する。
幡司社長によると、岡山市の場合、最近の仏壇の売れ行きは、家具のようなデザインや色味をしたコンパクトなモダン仏壇が9割以上を占める。「昔ながらの仏壇は一生に一度買うか買わないかという特殊性がある。20~30年前は80万~100万円台のものが売れ筋だったが、今は5万~30万円が中心。生活の中に先祖供養を含める考えが薄れてきている」と嘆く。
民間調査会社の東京商工リサーチの調査では、令和元~2年の全国の仏具小売り152社の売上高は新型コロナウイルス禍の影響もあり、515億6600万円で前年比4・4%減少。利益は3億9100万円の黒字から15億1100万円の赤字へと大幅に悪化した。
新しい価値発信
幡司社長が廃棄仏具の海外展開を思い立ったのは約7年前。当初は廃棄になる仏壇の引き取りが増え、海外にアンティークとして売り込む計画を進めていたが、新型コロナウイルス禍で中断。昨年、顧客から「彫刻が素晴らしいのでそこだけをもらいたい」「仏具に絵を描いたら面白いのでは」との声を聞いて再始動を決断。路線をアンティークからアート作品に変更し、芸術家支援の目的も加えて、「仏具をおのおのの発想でアートに昇華してもらい、海外で販売することにした」(幡司社長)という。
今回のプロジェクトは日本の古い仏具の存在を海外に向けて発信するのが狙い。今後はネット販売や海外向けの展示会への出展を検討している。
幡司社長は「日本文化の新しい価値を知ってもらい、廃棄を考えたお客さまも専門店も双方が喜ぶ形になれば」と期待。一方、国内に向けても「『もったいない』は日本人が大切にしてきた美意識。先祖を敬う気持ちを普段から持つことで、自分の心にどんな作用があるのかに気づき、心豊かな生活に送るきっかけになってほしい」と願う。(和田基宏)
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