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タックスマンばかりでない 財務省の「立会官」 被災インフラの早期復旧へ費用を適正査定

産経ニュース / 2025年1月2日 11時0分

減税に対する最大の抵抗勢力と受け取られ、今やSNS(交流サイト)上で〝国民の敵〟と批判される財務省。もっとも、出先機関の財務局では、「立会官(りっかいかん)」と呼ばれる異色の存在が人知れず国民生活を守っている。災害で壊れたインフラなどの復旧にかかる費用が適正かどうかを見極めるのが主な職務だ。能登半島地震から1年が経過する中、異常気象による災害の頻発・激甚化で後進の育成が急務となっている。

どんぶり勘定許さず

立会官が関わるのは、国の災害復旧事業。例えば、大雨で道路が崩落したとする。復旧したいのはやまやまだが、自治体による財源調達が難しいから後回しというわけにはいかない。被災地の生活環境を早期に安定させるため国庫で負担するのだ。

「その過程で文字通り、立会官が立ち会います」と話すのは、中国地方5県を管轄する中国財務局で立会官を務める渡辺健司・上席主計実地監査官と志岐亨・主計実地監査官。立会官は「査定の番人」と呼ばれる存在だ。

一連の流れはこうだ。自治体が復旧事業の計画を策定し、国土交通省や農林水産省など所管省庁に対し、復旧事業費を申請。省庁は現地に査定官を派遣するとともに、財務局も立会官が赴く。3者で適切な復旧工法と事業規模を現場レベルで決め、かかる費用を算出する。

もちろん、技術的見地は査定官に一日の長がある。だが、国の財布を預かるのはほかならぬ財務省。別の工法の方が妥当ではないか-。立会官は経済性を考慮するなどし、査定の適正度をチェックする。財源は国民があまねく負担する税。復旧事業であっても、どんぶり勘定は万に一つも許されないというわけだ。

最終的に、事業費がおよそ2割減にもなるケースも。昭和の頃には、自治体職員らが補助金目当てで被害を偽装する事件も相次いでおり、復旧事業の妥当性を見極める上で立会官の責任は重い。

誰かがやらねば…

関係法令に基づき、譲れない部分がありつつも「災害対応で苦労されている(自治体)職員を前に、ときに厳しいことも言わなければならないのはしんどく、つらい」と渡辺さん。だが、誰かが担わなければならない。志岐さんは仕事のやりがいについて「縁の下の力持ち。地域の迅速な復旧に貢献できる」と語る。

中国財務局幹部は「コストカットに焦点が当たりがちだが、被災地に寄り添いながら、着地点(適切な費用負担額)を探らないといけない」と、立会官ならではの仕事の難しさを説明する。

2人は発災から1年が経過した能登半島地震でも応援で夏以降に現地入り。特に渡辺さんは実地査定として、奥能登の各市町で被災した数多くの道路や河川、下水道施設をつぶさに見て回った。

慢性的な人手不足

後進の育成が急務となっているのも近年、災害が頻繁に発生し、規模や範囲も大きくなっているからだ。中国財務局では、立会官として従事できる主計実地監査官は約20人。国難レベルの災害が起これば、全国から人をかき集めても慢性的にマンパワーは不足する。

地域の復旧の足かせになりかねず、各財務局は有事に備えた内部研修を充実させるなど対策を急ぐ。技術職の査定官と渡り合うには、相応の知識や経験が求められる。この道20年以上の渡辺さんは「迅速な査定には、場数が物を言う」と話す。(矢田幸己)

能登半島地震を受け、北陸財務局が実施した「災害査定立会」は昨年9月末時点の速報ベースで、石川県で5223カ所だった。管内で被害申告件数は2万件以上に上っただけでなく、豪雨災害も重なり「正確なカ所数や事業費は現時点で提示できない」(同財務局の担当者)という。

災害査定立会制度 昭和25年に四国や近畿、北陸などを襲った「ジェーン台風」による被害を装い、石川県内を流れる手取川に架かる橋を、県庁幹部が業者に指示して崩壊させ、国費を詐取しようとした「天狗橋事件」が発生。翌年10月、「査定の厳正公平を期するために(中略)必ず大蔵省の係官を立会せしめること」と閣議決定された。

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