大自然が生み出す幻の「白い龍」肱川あらし 発生的中確率90%を誇るAI予測の精度
産経ニュース / 2024年10月27日 11時0分
山間で発生した霧が強風を伴い川を下る愛媛県大洲市の冬の風物詩「肱川(ひじかわ)あらし」。大洲の特殊な地形と気象条件がそろって初めて起きる全国でも珍しいこの現象の発生確率を、岡山理科大(岡山市)の研究チームがAI(人工知能)を活用して割り出す取り組みを進めている。昨年は20回中18回も予測が的中した。「空振り」もあったものの、発生条件の一部も新たに判明し、今年はさらなる精度アップに大きな期待がかかっている。
全国から愛好家
「肱川あらし」は愛媛県南西部に流れる肱川上流の大洲盆地で発生した霧が、強風を伴い河口に向かって一気に噴き出す自然現象。兵庫県豊岡市の「円山川あらし」、鹿児島県薩摩川内市の「川内川あらし」とともに、「日本三大川あらし」に数えられる。船村徹氏が作曲し、「ひとり酒」などのヒット曲で知られる演歌歌手の伍代夏子さんが歌う「肱川あらし」の題材にもなっている。
早朝、朝日に照らされた霧がゴーゴーという風の音とともに川沿いを流れ、街を飲み込んで海へ向かう姿は「白い龍」にも例えられる。その大自然が生み出す壮大で美しい風景は、全国から愛好家が写真撮影に訪れるなど地域の観光コンテンツの一つにもなっている。
ただ、10月~翌年3月ごろまでのシーズンの発生は20回程度。午前7時ごろから1時間程度の間にしか見られないこともあり、市の担当者は「多くの人に見てもらいたいが、なかなか条件が厳しいのが実情」とこぼす。
データ基に計算
市などで作る肱川あらし実行委員会によると、①大洲盆地で放射霧発生②肱川で蒸気霧発生③強風を伴い霧が長浜大橋に到達-の3条件が共存して初めて肱川あらしと認定される。晴天で昼夜の寒暖差が大きいことや河口付近の海面温度など、一定の発生条件は判明しているが、実際に発生を予測するのは難しい。
全国の気象現象を研究している同大生物地球学部の大橋唯太教授(気象学)が約10年前から、肱川あらしの研究を開始。同大の学部生がAIによる発生予報に着手したことをきっかけに、約2年前から公立鳥取環境大(鳥取市)の重田祥範准教授らと研究チームを組んで予測に取り組んでいる。
大橋教授らが開発した「肱川あらしAI予報」は5年間分の現地周辺の気温や湿度、水温、日照時間、潮位など約20種類の気象データをAIに登録。現地で映像による定点観測を続けている重田准教授の協力を得て、肱川あらしが発生した日を特定し、そのときの気象条件をAIに学習させ、それらを基に2日後と1日後の発生確率を自動で計算するという仕組みだ。
地域観光の支援に
昨年10月から4カ月間運用したところ、発生した20回のうち、発生確率50%以上と予報したのは18回に上った。一方、50%未満の予報で発生した「見逃し」は2回、50%以上と予報したものの発生しなかった「空振り」も10回あったという。
これらの運用結果の分析から、当日の雲の量や内陸と海面の温度差、大洲盆地の昼夜の温度差などについて、発生条件の詳細が一部判明した。
今年は分析データを反映させるとともに、他の気象条件も重要度を見直すなどAIを調整。風速の予報を新たに加えて10月から予報結果をホームページで公開している。
大橋教授は「AIの調整に加え1年分のデータも加わっており、精度はより上がっているはず」と自信をのぞかせる。今後については「発生メカニズムをより詳細に解析し、予測精度をさらに上げていきたい。より多くの観光客らが見に来るようになれば、地域観光の支援にもつながる」と期待を寄せている。(前川康二)
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