「建築遺産の解体は歴史の損失」 スイス育ちの起業家が伝統家屋の共同オーナー制を考案
産経ニュース / 2024年10月21日 10時0分
老朽化や維持費負担の重さなどから、多くの歴史的、文化的建築物が解体の危機にさらされている。そんな中、東京のスタートアップ企業「kessaku(ケッサク)」が複数人のオーナーが建物を共同で保有し、別荘やセカンドハウスとして利用できるようにする仕組みを考案。岡山県内に残る伝統家屋の保存・活用に向け、オーナーの募集を始めた。同社の藤井智大代表(29)は「海外でも日本の伝統家屋への注目が高まっている。唯一無二の建築遺産の継承、地域に根付く新しい形でのインバウンド(訪日客)の受け入れにつながれば」と意気込む。
登録有形文化財も…
文化庁によると、昨年2月現在の国の登録有形文化財(建造物)は約1万3600件で、これまでに老朽化に伴う解体などに伴い、274件の登録が抹消されている。
登録有形文化財をはじめとする伝統的家屋やモダニズム建築などは大規模のものが多く、取得費用がかかるうえ、老朽化での継続的な修繕にも多大な費用と労力が必要。現代では住みにくいつくり、相続税や固定資産税などの負担も大きいことから、個人所有での継承は難しく、活用も進まないのが現状だ。
それらを「建築遺産」と位置付ける藤井代表は「欧州では文化財として国が保全しようという認識があり、支援の仕組みもできている。日本では支援以上に手間が多く、所有者の裁量が大きいので解体されてしまう」と説明。「名建築が壊されるのはアイデンティティーや歴史の損失だと認識してほしい」と訴える。
違いにショック
藤井代表は母親の仕事の関係で高校卒業までスイスで暮らし、帰国後に日本の大学でプロダクトデザインを学んだ。日本の自動車会社に入社したが、「デザインとビジネスの融合を学びたい」と退社。3年前にMBA取得のためロンドンの大学院の月1回コースに通う傍ら、マルタ共和国のリゾート開発会社に勤め、昨年7月に帰国した。
「欧州では古い建物を手入れして住み続けるのが当たり前で、日本は新築が多くてカルチャーショックを受けた」という藤井代表。「建築遺産」を保存・活用できないかと考えて考案したのが、複数人が共同オーナーとして建物を保有し、別荘やセカンドハウスとして利用できるようにする仕組みだ。古くからあるモデルだが、藤井代表によると、海外では新型コロナウイルス禍を機に、物件の共同オーナー制が再注目されているという。
権利を小口化することで1人当たりの負担を軽減。改装や管理、メンテナンスは藤井代表の会社が担い、オーナーの手間が少ないのが特徴だ。
使い勝手を考慮
江戸時代に山陽道の宿場町として栄え、古い町並みが残る岡山県矢掛町中心部の「重要伝統的建造物群保存地区」(重伝建)。本通りは直線で約800メートルと長く道幅は8メートルと広く、江戸から平成のそれぞれの時代性を持つデザインの町家が併存する。その一角にある築85年の古民家がオーナー権販売の第1号物件だ。
木造瓦ぶき2階建て、延べ床面積約214平方メートル、庭などを含む敷地面積は約699平方メートル。周辺でもひときわ大きく、矢掛に住みついた武士の一族が建てたという。
その伝統的な日本家屋の特徴的な部分を残しつつ、現代での使い勝手を考慮した6LDKにリノベーション。五葉松の大木が目を引く日本庭園を眺めながらリラックスできるサウナとヒノキの湯船を備える浴室、大正~昭和期のノスタルジックな雰囲気が漂うダイニングルーム、蔵を活用した離れも整え、来年12月に運用を開始する計画だ。
オーナー権は宿泊予約が可能な1口が6750円、毎年1泊分が付与される100口67万5000円、最大の3万6500口(個人所有)2億4637万5千円に設定。所有権や宿泊権は自由に売買できる。大口購入者を優先して権利を販売するという。事前登録者を対象にした9月の第1期では全体の約5%の購入申し込みがあった。
景観生かし地域振興
本通り沿いの古民家の解体で地元の商店街を中心に危機感が強まり、平成4年には古民家の再生景観整備を行う「備中矢掛宿の街並みをよくする会」が発足。町や県に働きかけ、総額5・2憶円をかけて19年までに、自主改修を含め75軒の景観整備事業を実施した。
3年には無電柱化工事や、物販店、飲食店がなく案内や休憩、イベント利用に特化した市街地型の道の駅が完成した。
同会の会員数は現在約110人。5代目会長でギフトショップ社長の坪井伸之さん(64)は「保全された景観を生かした地域振興に取り組みたい」と決意を語る。
藤井代表は「歴史に没入できる観光体験が強く求められている。海外からの目線では城や神社仏閣とともに、エリア自体に歴史的な価値がある宿場町は魅力的に映る」と指摘。「日本文化の継承や保全に関心の高いオーナーが定期的に訪れるようになれば、関係人口の増加、地域活性化につながる」と期待している。(和田基宏)
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