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静岡ガスが交雑魚「クエタマ」陸上養殖 「世界のタンパク質危機」見据えて描く成長戦略

産経ニュース / 2024年12月22日 12時0分

静岡ガスの陸上養殖施設=11月7日、静岡市

静岡ガスが、魚の陸上養殖に乗り出した。ハタの仲間で高級魚として知られる「クエ」と、同じくハタの仲間で大きくなる「タマカイ」を交配させた「クエタマ」を育て、養殖に使用する人工海水の水質を維持するために海藻「海ブドウ」も栽培するという。海産物が豊富な静岡県だが、陸上での養殖も盛んに行われており、同社はガス販売以外の事業強化という成長戦略の一環として取り組む。

水の加温は得意分野

「クエタマ」は自然界にはいない交配種で適水温は27度と高いが、静岡の温暖な気候がこれを実現可能にする。水温が極端に低温となる場合は加温することになり、そこはガス会社だけに得意分野だ。

「比較的養殖が容易で、広い施設が要らない」(橘高大輝・経営戦略本部デジタルイノベーション部未来価値共創担当)ともいう。同社はまず、静岡支社(静岡市駿河区)に設置した陸上養殖施設を試験的に稼働して稚魚を放流し、来年末には地元の飲食店やスーパーなどへの試験的な出荷を開始する計画だ。

ハタの仲間は脂ののったうまみの強い白身魚で、すしや刺し身のほか中華料理の食材などにも向いている。クエについては西日本で〝鍋の王様〟ともいわれており、鍋となればガスの消費拡大にもつながる。

「クエタマ」もそうした市場を狙う。静岡は海産物が豊富だが、魚といえばマグロやカツオ、サバ、アジなどが中心だ。スーパーなどでもハタの仲間はあまり見かけないが、逆に高価で付加価値が高く、差別化も可能と判断した。

人口減が背景に

同社が陸上養殖に着目した背景には人口減への危機感がある。同社のようなインフラ企業はその影響を受けやすい。都市ガスの普及率が低い地方の場合、ガスの供給エリアを拡大するといった取り組みでまだまだ企業としての成長は見込めるものの、人口減は今後ますます深刻化する。養殖事業はそうした将来も見越し、主力事業を補うものとして検討された。

国内の人口減とは対照的に世界的には人口増が続く。同社の松本尚武社長は「世界の人口増加に伴うタンパク質危機を見据え、次世代の食に関わる課題解決につなげたい」と意気込む。

気候、水質で適地

静岡県は雪が降らず、霜もおりない温暖な気候で、豊富で良質な水に恵まれており、養殖の適地とされる。このため伝統のある浜名湖のウナギ養殖はよく知られているが、近年は陸上養殖も盛んに行われている。

10月25日には、丸紅が小山町の施設で養殖したアトランティックサーモンの本格販売を始めたと発表した。同サーモンは、日本近海のサケとは別種で、すしネタなどとして利用されている。養殖施設はノルウェーのプロキシマーシーフードが日本初となるアトランティックサーモンの陸上養殖施設として建設し、令和9年には国内市場の約1割に当たる約5300トンを出荷する計画だという。

海のない富士宮市では富士山の伏流水を使ったニジマスの養殖が盛んだ。静岡市清水区の三保では、地下海水を活用したサバの陸上養殖なども行われている。

静岡県は、関東と関西の間に位置し、交通利便性も高いことから大都市圏への出荷もしやすい。長い海岸線を有し、マグロやカツオといった海産物では屈指の水揚げを誇る静岡県だが、課題の解決や産業の維持、活性化といった期待を担う陸上養殖への期待も大きい。(青山博美)

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