ホテルやサウナ、時にはジム 「動く不動産」トレーラーハウス、150億円市場へ成長
産経ニュース / 2024年7月31日 8時0分
車台に住居部分などを載せた「トレーラーハウス」の用途が急拡大している。起源は米国西部開拓時代の「ほろ馬車」と古いが、日本では平成23年の東日本大震災で被災地支援の活動拠点に使われたのを機に仮設住宅などにも応用され、近年はホテルや店舗としての活用が増えている。「車検や許可証を取らずに公道を走らせる違法業者が少なくない」(業界団体)との問題もあるが、車両の基準を満たした物件であれば移設が容易で急な需要の変化に対応できる良さがある。税金や建築コストの初期投資を抑えられる利点が多く、投資用物件としても注目が集まっている。
投資目的の需要増加
「投資目的の需要は強く、造れば売れる状況だ」
こう話すのは、トレーラーハウス事業を推進するヒーローライフカンパニー(HLC、東京都港区)の担当者だ。
令和3年3月、栃木県那須塩原市への出店を皮切りに、トレーラーハウスを使った〝動くホテル〟「Trail inn(トレイルイン)」を北関東中心に11拠点、計244室を展開。自社工場で製造して投資家に1台704万円から小口販売し、HLCがその物件を投資家から借り上げて宿泊施設として運営する。投資家には賃料収入が入り、HLCは宿泊料を得る。
周辺に工場があるパチンコ店やホームセンターの駐車場一角などに立地し、工場へ派遣されるメンテナンス作業員の長期滞在などを取り込んでいる。最近は家族連れやオートバイのツーリングに訪れるグループ旅行客らの利用も増え、客室稼働率は約8割と高い水準で推移。今年8月1日には近江鉄道が所有する滋賀県彦根市の商業施設敷地内で関西へ初進出するなど勢いを増している。
一般社団法人日本トレーラーハウス協会(JTHA、東京都中央区)によると「市場への期待感から(投資物件として手掛ける事業者などの)参入が増えている」といい、国内市場は約140億~150億円と推計。10年間で2倍超に拡大したとみる。
事業者にとっては置き場所も自由度が高く、建てる際の基礎工事がいらないなど初期投資を抑えられるメリットがある。投資家にとっては、車両に該当すれば減価償却期間が4年と短く、短期間に経費計上が可能。自動車税はかかるが、不動産取得税や固定資産税が課されず税負担が少ない。
ただし「自治体によっては建築物と見なされ、車検を取れない大きさのトレーラーハウスもあるため注意が必要。正式な手続きを経ず、違法に公道を走らせる事業者もいる」とJTHAの担当者は警鐘を鳴らす。
住宅メーカーも参入
課題もある一方、移設の容易さといったメリットに注目し、大手住宅メーカーやゼネコンの参入も相次いでいる。
開幕が来春に迫る大阪・関西万博の建設現場に5月登場したのは、コンビニ業界初となるトレーラーハウスを使った移動型無人店舗の「ファミリーマート」。太陽光パネルで発電して蓄電池に充電し、必要な電気を供給する自立電源システムを搭載しており、竹中工務店や日立ハイテクなどが開発を手がけた。ファミリーマートは被災地や過疎地などでの、いわゆる「買い物弱者」支援のため同様の店舗を今後も検討するとしている。
一方、ミサワホームは昨年9月、平時に宿やカフェとして運営しながら、災害時などは応急仮設住宅への転用を想定したトレーラーハウス「ムーブコア」を発売。今年4月、これを客室部分に採用したLIFULL Financial(ライフルフィナンシャル)のグランピング宿泊施設が栃木県那須町にオープンした。建築困難な崖上にあり、建物であれば必要となる大規模な基礎工事や建築確認申請をせずに設置することができた。
三井不動産は令和3年11月、東京都内で実証実験施設を始める形で事業参入した。昨年7月に東京・御徒町で鉄道高架下の場所を生かし、トレーラーハウス「HUBHUB(ハブハブ)」を実装、現在は神奈川県など4カ所で展開する。トレーラーハウスにサウナやパーティールーム、ジムを設置するなどバリエーションを豊富にそろえ、差別化を図っている。
ハブハブは当初、インバウンド(訪日客)向けのホテル用途を見込んでいたが、新型コロナウイルス禍で見直し、現在は近隣住民が主要ターゲットだ。平日は勤め先近くで、休日は自宅近くを、と複数の施設を使い分ける愛用者も現れており、リピーター率は約3割に上る。住宅メーカーの情報力を駆使し、都市部の遊休地を生かして開発を進めている。
「友人を呼べる広いリビングが自宅になくても、皆で集まる場所があれば、住宅の在り方も変わってくるのでは。そんな世界観をぜひ目指したい」。事業発案者でもある同社ベンチャー共創事業部の佐藤貴幸プロジェクトリーダーはそう語り、都市部を中心に拠点を増やす考えを示す。
国内宿泊市場の1%
国内でのトレーラーハウス市場はまだ発展途上にあり可能性は未知数だ。英調査会社のユーロモニターインターナショナル(ロンドン)は「日本におけるトレーラーハウスのホテル市場規模は世界と比べても小さく、宿泊施設全体の市場の1%に過ぎない(世界は13%)」と推計。令和10年時点でもこの割合は1・7%ほどでニッチな分野にとどまるとみる。
一方、小売店舗に関しては「『フードトラック』(キッチンカー)と比べると、店舗スペースの確保や食品提供以外の日用品なども陳列できるメリットがある」とし、「既存の移動式スーパーなどとのすみわけをどう消費者にアピールできるかが課題だ」と指摘している。(田村慶子)
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