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求む!路面電車とバスの「二刀流」運転士 人手不足を打開する両備グループの人事戦略

産経ニュース / 2024年12月26日 11時0分

二刀流乗務社員募集を発表する小嶋光信社長=岡山市中区

求む!〝二刀流運転士〟。岡山県を中心に交通事業、情報通信技術(ICT)事業などを展開する両備グループの岡山電気軌道(岡電、岡山市中区)は路面電車とバスの両方を運転する職種を新設し、募集を始めた。かつてバスや電車の運転士は子供が憧れる人気の職種だったが、近年はスポーツ選手、医師、ユーチューバーなどにとって代わられた。岡電社長の小嶋光信両備グループ代表は「乗り物の運転手が再び、子供たちがなりたい職業といわれるよう、夢と誇りが持てる職種にしたい」と意気込む。

「2024年問題」も逆風

二刀流運転士の採用予定数は10人で、原則として40歳以下。まずは岡電バスに配属され、大型二種免許を取得し、指導期間を終えると1年間、路線バスに乗務。その後、電車部に転属され、国家資格である「動力車操縦者運転免許(乙種電気車運転免許)」の国家試験に備える教育期間に入り、免許の取得を目指す。専任運転士になれば毎月5万円の二刀流手当が支給され、基本的に6カ月交代でバスと電車の乗務を担当するという。

「プロドライバーはヒーローだと信じている」と話すのは岡電の大林玲嗣常務だ。ただ、その言葉とは裏腹に、運輸交通業界の人手不足は深刻化の一途をたどっている。

警察庁の運転免許統計によると、令和3年の大型二種免許の保有者は約82万5千人で、20年前の7割以下の水準にまで落ち込んだ。同年の保有者のうち65歳以上は約46%と、20年間で約9ポイントも高齢化が進んだ。新型コロナウイルス禍の影響でモチベーションを保てずに辞める人も増え、先行きが不透明だったこともあり、新規採用を取りやめる事業者も相次いだ。

両備グループでも平成31年3月に2067人だった路面電車やバスなどの乗務社員数は令和5年3月には1727人に減少。運転士の時間外労働時間の上限が規制される「2024年問題」も大きな逆風となり、人手不足に拍車がかかった。

人材掘り起こしに成功

こうした状況の中、両備グループはコロナ禍が沈静化してきた昨年夏に思い切った手に打って出た。タクシーやバス、物流、路面電車、フェリーなどを有する「トランスポーテーション&トラベル部門」が一括で200人を募集する「宇宙一本気(マジ)な乗務社員採用プロジェクト」だ。

「稼げる、働きやすい、誇れる」を掲げ、岡山県内の他業種の平均給与を上回る平均給与への待遇改善、現場の要望をふまえた労働環境の改善などを同時に進めた。

その結果、目標を上回る216人を採用することができた。10~40歳代が約6割を占め、約8割は未経験者。入社後に会社負担で必要な免許を取得。入社後のヒアリングでも満足度が高いとの声が多く寄せられている。

両備グループの大上真司バス・鉄軌道ユニット長は「業界内で取り合ったわけではない。業界外から8割というのは予想以上の成果。潜在的にプロドライバーへの憧れを持つ人を掘り起こせた」と分析する。一方、女性比率は10%未満にとどまり、課題も残った。

将来は四刀流も

モチベーションアップのため、運転士デビュー期間には家族の乗車体験会を実施。来年4月には家族乗車証支給制度を新設し、乗務社員の家族に会社のファンになってもらう仕組みを導入する。

小嶋社長はこれらの取り組みの狙いについて、「プロドライバーが誇りの持てる仕事であるという認知を定着させることで、結果的に人員不足を解消し、公共交通ネットワークの維持、拡大につながる」と説明する。

採用プロジェクトの成功は注目を集め、30以上のバス会社や自治体から問い合わせがあり、視察に訪れたり、役員が講演に招かれたりするなど、大きな反響を呼んだ。

「他業種並みの待遇を用意し、的確なプロモーションを行った。やるべきことをやれば人材を確保できる」と手応えを語る大上ユニット長。乗務員が充足したことで勤務ローテションに余裕ができ、増便の実現という成果にもつながった。

「今後100年間続けられる運輸交通サービスの基盤を築く」ことを目的に、今年11月から来年10月の1年間で200人採用計画を継続。年齢や性別の構成比改善を図るのが目的で、二刀流運転士の募集はその一環だ。

大上ユニット長は「多様な働き方ができる両備グループへの最初のステップ。将来的には三刀流、四刀流に踏み込んでいく」と話している。(和田基宏)

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