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食糧難を見据えた「食用コオロギ事業」の破綻 急成長求められるスタートアップ企業の限界

産経ニュース / 2025年1月23日 11時0分

食用コオロギ養殖事業などを展開していた徳島大発のスタートアップ企業、グリラス(徳島市)が昨年11月、自己破産した。世界的には将来の食糧難が予測され、貴重なタンパク源として注目される昆虫食だが、現代日本においてはむしろ、本来食べられるにもかかわらず食品を廃棄してしまうフードロスが社会問題になるなど現実感が乏しい。そんな中で事業拡大を急いだ結果、資金調達に窮したようだ。グリラス自己破産の背景にある、日本の昆虫食を取り巻く現状とは-。

使命感から設立

グリラスは令和元年5月、食分野の課題を解決する最先端の技術「フードテック」を使った新興企業として設立された。代表は、コオロギの生態に関する研究を続けてきた徳島大助教(当時)の渡邉崇人さん。ビジネスの経験や知識はほとんどなかったが、食料の安定供給や安全保障に自らの研究を役立てようと、使命感をもって挑戦したという。

「タンパク質危機の解決策を示すため、ドラスチックに世間の認識を変えようと考えた」と渡邉さんは振り返る。

徳島県美馬市内の廃校校舎2カ所を研究や生産の拠点とし、抵抗感が少ないパウダーから始め、昆虫の姿が見える形の加工食品、自分で調理できるような食材へと広げていく想定だった。

2年には、パウダーを混ぜた「コオロギせんべい」を良品計画(無印良品)と共同開発して発売。4年11月に徳島県内の高校にパウダーを提供し、生徒が考案した学校給食メニューを、食べたい生徒だけが選べる形で提供。5年1月にはNTT東日本と共同で、IoT(モノのインターネット)機器などを活用した飼育法の実証実験を開始した。パートを含め約50人のスタッフがかかわった時期もあった。

だがこの頃、ネット上に食用コオロギやグリラスに対する批判が目立つように。「コオロギを食べると体が電池化する」「給食に昆虫を混ぜて食べさせられている。無理やり庶民に昆虫を食べさせる運動だ」といった事実無根のデマも少なくなかった。

世界では有望、日本では…

食用コオロギが注目されるきっかけは、2013年に国連食糧農業機関(FAO)が発表した報告書とみられる。推計では、2050年に世界人口は約97億人に到達し、食糧難、とりわけタンパク質の確保が困難に。報告書では、昆虫食はすでに世界20億人以上の人々の日常的な食材となっているとし、昆虫食の可能性を展望した。

日本能率協会総合研究所も、世界の昆虫食市場は2019年度の70億円から2025年度には1000億円規模に急拡大すると試算。食用コオロギはタンパク質の含有量が多いなど栄養価が高いうえ、成育する際に必要な水や餌の量、温室効果ガス排出量も少ないメリットがある。

ただ、日本国内では様相が異なる。NPO法人「食用昆虫科学研究会」の吉田誠理事(35)は「イナゴなどの伝統食がある日本だが、食用コオロギの需要は広がっていない。環境にやさしいという理由でわざわざ買う価値を見いだしにくい」と説明する。

吉田さんによると、食用コオロギの養殖には設備のほか人件費や餌代などの費用がかかる。「たとえ需要が高まったとしても、参入障壁はさほど高くないので輸入品を含め競合が激しくなる」と指摘。「早期に大きな成果を求められ、大きな設備投資や宣伝費を投じがちなスタートアップのビジネスとしてはリスクが大きい」とみる。

商談や出資滞り、経営が窮地に

ネット上の批判にさらされたグリラスは、これから事業を拡大していこうという段階で、大きな転換を迫られた。取引先や新規の商談先とは全て、いったん様子見という状況になったという。

「取引が進まなくなると、投資家の出資が途端に難しくなる。ビジネス拡大後の稼げる状態であれば問題はなかったはずだが、当時の売り上げは大きいものではなく、他の収益源がないので事業を縮小せざるを得なかった」と渡邉さん。経営は窮地に陥った。

批判への対応について社内で協議したが「沈静化するまでやり過ごすしかないと判断した」。事態は改善せず、段階的に事業を縮小、昨年11月頃に最終的に事業継続は不可能と判断し、徳島地裁に自己破産を申請した。負債総額は約1億5000万円。

渡邉さんは「常に最善を尽くした」と振り返り、今後については「研究開発をもう一度頑張りたい。社会の役に立てる何らかの成果が出たときには、再度チャレンジを考えるかもしれない」と語った。

デマには反論、おいしさ追求を

「ネットの批判にさらされたとき、当事者の企業が反論をしないと周りは手助けができない。昨今は黙っていればやり過ごせる時代ではなく、荒唐無稽なデマや、事実に反することにはきちんと反論することが必要だった」。食用昆虫科学研究会の吉田さんは、ネットの批判に対するグリラスの対応について、こう分析する。

ただ、ネットの影響がなくてもグリラスを取り巻く状況は厳しかったとみられる。食用コオロギ業界では、昨年1月にも長野県のベンチャー企業「クリケットファーム」が販売不振で自己破産。一方で、一部ベンチャーや小規模経営の会社で、地道に事業を継続しているケースもある。

では、今後日本における食用コオロギ市場はどうなるのか。吉田さんは「食料に困っている途上国では栄養改善に役に立つ場面があるかもしれないが、日本では難しい」と指摘。その上で、「食用昆虫は嗜好品で、あくまでも食べたい人が食べるという認識が大事。より多くの人に受け入れられるようにするには、おいしさを追求することが必要だ」との見方を示した。(和田基宏)

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