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町工場から世界トップの空調メーカーに 創業100周年のダイキンが乗り越えた2つの壁

産経ニュース / 2024年7月8日 10時0分

今年10月に創業100周年の節目を迎えるダイキン工業。大阪の町工場から始まった企業が、いまや売上高4兆円を超える世界トップの空調メーカーとなった。しかし、その道のりは常に順風満帆だったわけではない。オイルショック、2度にわたる米国進出失敗、欧州の規制強化-。多くの荒波を乗り越えた結果、今の姿がある。

日本初の冷房列車に採用

ダイキンは1924(大正13)年に大阪市で大阪金属工業所として創業した。飛行機用のラジエーターチューブなどを生産する傍ら、34年に冷凍機の試作に成功。36年に南海鉄道の日本初の冷房車に採用された。そして同時期に冷凍機に欠かせない「冷媒」の開発にも参入した。

エアコンや冷蔵庫などの製品は、圧力をかけると液体から気体になる性質を持つ「冷媒」と呼ばれる物質を使い、周りから気化熱を奪うことで冷気を発生させる。ダイキンは世界で唯一、冷媒から機器開発、製造・販売、アフターサービスまでを自社で行い、それが大きな強みとなった。

創業から10年ほどで冷媒と機器の〝二刀流〟へとシフトしたダイキンだったが、今なお続く販売の戦略を確立したのはもっと後のことになる。契機となったのが70年代の第1次オイルショックだ。製品市場の縮小とエネルギー価格の上昇によって経営に打撃を受けたダイキンは四半世紀ぶりに赤字に転落。社内には人員整理もやむなしとの空気が広がった。

しかし、当時の山田稔社長は「不況時代の生き残りで、しばしばとられる手段が過剰人員の整理。だが、このような手段での危機乗り切りは何としてでも避けたい」と宣言。約600人に及ぶ製造部門の余剰人員を販売部門へと配置転換する大胆な施策をとった。営業経験のない社員ばかりで、しかも系列販売店を持たないダイキンは一から地域の販売店を開拓していく必要があった。

多大な経費と労力がかかったが、この「地域の販売店を開拓」するノウハウが、いまもグローバルで空調機器を販売するダイキンの基本戦略となっている。設置工事が必要なエアコンは、ただ販売するだけでなく、各地域の販売店や工事業者を抱き込む必要がある。担当者によると、新興国に販路を広げる際には「今も昔ながらのどぶ板営業が活躍する」という。

悲願の北米ナンバー1

「長年の夢であった北米ナンバーワンも手中に入ってきている」

今年5月、大阪市内で開かれた100周年記念式典で、十河(とがわ)政則社長(当時)はそう力強く宣言した。2000年代以降のダイキンの成長を語るとき、切っても切り離せない海外事業の成功だが、その中核ともいえる北米市場への進出では過去に2度の煮え湯を飲まされている。

1981年の1度目の進出は、契約した現地代理店の支払い遅延により、ダイキン側が訴訟を起こす事態となり頓挫。2度目は「ダイキン中興の祖」と呼ばれる井上礼之(のりゆき)氏が社長時代の98年に、北米で主流の「ダクト式」のエアコンで挑んだが、販売は伸びずに撤退することになった。

3度目の正直は井上氏が会長となった後のことだ。ダイキンは2006年にマレーシア空調大手のOYLインダストリーズを約2400億円で買収。12年には米グッドマン・グローバルを約2960億円で買収し、海外での事業拡大の橋頭堡(きょうとうほ)とした。

このM&A(企業の合併・買収)戦略は見事に的中し、OYL買収前に1兆円に満たなかった売上高は急激に拡大。現地の家庭用空調機大手を買収したことで、北米市場でも確固たる地位を築くことに成功した。23年の売上高4兆3953億円のうち、海外比率は84%と高い割合を占める。

100周年の式典で井上氏が「町工場からグローバル企業に変貌し、隔世の感がある」と感慨深げに語るのもうなずける躍進ぶりとなった。

議員へのロビー活動で廃案に

ダイキンを語る上でもう一つ欠かせないのが、冷媒の環境規制を巡る攻防だ。

欧州の環境委員会に05年、冷媒として使われる「代替フロン」を使用禁止とする法案が前触れもなく提出、採択された。もし法案が本会議を通過すれば欧州では空調事業が成り立たなくなる緊急事態だ。ちょうど経済界に近い議員たちが長期休暇を取っているタイミングで、現地の社員は「阻止しないと欧州事業がつぶれかねない」と肌で感じていた。

ダイキンヨーロッパ社の生産本部長が指揮を執り、営業担当から生産に携わる人員まで総動員して議員へのロビー活動を敢行。欧州向けに空調機を生産するダイキンのチェコ工場に議員を招き、「通過すれば多くの雇用が失われてしまう」と訴えると彼らの顔つきが変わった。必死の思いが通じた瞬間だった。

ダイキンだけでなく、このときばかりは各空調メーカーが連携してロビー活動を仕掛け、採択からわずか2週間後の本会議で規制案を廃案に追い込んだ。

欧米ではこうしたルールメーキングによる市場環境の変化が起きるリスクがあり、いい製品を作っているだけでは生き残るのは難しい。ロビー活動も重要な戦略の一つとなる。

6月27日の株主総会後の取締役会を経て、井上氏が会長を退任し、十河会長、竹中直文社長の新体制が始まったダイキン。これまでと同じ躍進を見せることができるのか。今後の動向が注目される。(桑島浩任)

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