黄門様が行った文化財保護の痕跡を初確認 栃木県大田原市の上侍塚古墳で盛土
産経ニュース / 2025年1月2日 12時0分
日本で文化財保護の先駆者として知られる時代劇でも有名な水戸黄門こと水戸藩2代藩主の徳川光圀。栃木県埋蔵文化財センターが実施した「上侍塚古墳」(同県大田原市湯津上)の調査で、光圀が行った文化財保護の痕跡が初めて確認された。墳丘を保護するために盛土などを実施しており、光圀によって現在の古墳の形状になったことが分かったという。
約330年ぶりの調査
同センターによると、盛土の痕跡が確認されたのは、上侍塚古墳後方部の北斜面や墳頂部の南付近など。盛土には周辺から取った土を活用していたといい、盛土の下からは古墳時代の墳丘も確認された。
調査は県の重要遺跡などの保存・活用事業「いにしえのとちぎ発見どき土器わく湧くプロジェクト」の一環として、平成3年度から上侍塚古墳と、約1キロ北の下侍塚古墳(ともに国指定史跡、前方後方墳)で実施された。下侍塚古墳は昭和50年に土地改良事業に伴い周囲の調査が行われたが、上侍塚古墳は光圀以来約330年ぶりの調査となった。
上侍塚古墳では本格的な調査を前に地中レーダー探査で光圀による調査が行われた位置や古墳の形状などを確認。十数カ所にトレンチ(調査用の溝)を掘って調査したところ、盛土痕跡だけでなく、光圀による調査の範囲が墳上の約9メートル四方だったことが判明。墳頂からほぼ直角に掘り進めた形跡なども初めて明らかになった。また、上侍塚古墳の総長(154メートル)と墳長(114メートル)が正式に確定した。
江戸時代の記録内容を証明
光圀が家臣に命じて上侍塚、下侍塚の2基の古墳で発掘調査を実施したのは元禄5(1692)年。古墳からは鏡や管玉、鉄鏃(てつぞく)などが出土したものの、被葬者の名を記した墓誌などは見つからなかった。このため出土した遺物は絵師に描かせるなど調査記録に残したうえで松で作った箱に納め、再び埋め戻された。さらに、光圀は墳丘の崩壊を防ぐため古墳全体を盛土し、松を植えて保護にあたった。
このことは当時の調査記録「湯津神村車塚御修理」として残り、光圀が日本で文化財保護の先駆者といわれるようになった。今回の調査では当時の記録に記された光圀の古墳保護の状況が事実だったことが初めて証明された。
同センター副所長の篠原祐一さん(61)は「日本一美しいと称されていた侍塚古墳の姿は本来は大きな台形の上に小さな台形をのせたような形だったが、光圀が保護活動として盛土してつくった結果のものだった」と解説した上で、「今回の調査では、光圀の慧眼(けいがん)を確認できた」と話した。(伊沢利幸)
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