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1頭に2年間、300万円…手足不自由な人支える「介助犬」、育成の原動力は利用者の声

産経ニュース / 2024年7月7日 12時0分

「小さな親切」運動愛媛県本部の大塚岩男代表(手前)から「尾山賞」の表彰状を受け取る砂田さん=松山市(前川康二撮影)

手足が不自由な人をサポートする「介助犬」。全国でも50頭程度しかいないという介助犬を育成する団体が松山市にある。一般社団法人「ドッグフォーライフジャパン」。代表理事の砂田真希さん(48)は米国で技術を習得、平成24年からこれまで介助犬や聴導犬を計6頭を世に送り出してきた。こうした活動が評価され今年6月には「小さな親切」運動愛媛県本部から特別賞「尾山賞」を受賞。砂田さんは「これを励みに、これからも介助犬・聴導犬の普及に取り組んでいきたい」と決意を新たにしている。

介助犬育成に運命

介助犬は、ドアの開閉や指示されたものを運んだり、緊急時に人を呼びに行くなど手足の麻痺(まひ)や欠損などがある障害者の日常生活をサポートする役割を担う。目や耳に障害を持つ人を助ける盲導犬や聴導犬と合わせて「補助犬」と呼ばれる。

砂田さんは京都市のドッグトレーナー専門学校に在学中、テレビ番組で介助犬の存在を知った。店の陳列棚から商品を取ったり、指示を受け扉を開けたりと、車いす姿の飼い主を献身的に支えながら暮らす介助犬の姿を見て「介助犬を育てる仕事に運命的なものを感じた」という。

ただ、介助犬の訓練施設は国内になく、訓練士になるための機関も米国にしかない。専門学校を卒業後、動物病院で看護師として働き、獣医学の知識を身に付けながら資金をため、29歳で米・カリフォルニア州の専門学校に留学した。

自然と受け入れられる社会に

同校は介助犬の創始者が開校した世界唯一の介助犬訓練士養成校で、砂田さんは8カ月間で準学位を取得するプログラムを受講。月齢の違う3頭の犬と昼夜を共にしながら、介助犬のトレーニング方法や障害者が介助犬と暮らす際の注意点などを学んだ。

留学中に強く印象に残ったのはスーパーマーケットでの光景。「訓練で買い物に行くと、客も従業員も介助犬の存在を自然と受け入れていた。日本でもそういう光景が当たり前になれば」と感じたという。

帰国後、横浜市内の社会福祉法人で聴導犬の訓練方法を学びながら補助犬の普及活動に携わった。そこで感じたのは、介助犬の地域偏在だ。

首都圏では少しずつ介助犬や聴導犬の普及が進んでいたが、地方ではほとんど認知度がない状態で、中四国では介助犬の育成実績はなかった。「介助犬のことを知らない地域の人たちに、普及していきたい」と考え、故郷・愛媛で平成24年から活動を始めた。

中四国でも認定試験を

介助犬の育成は、まずブリーダーから犬を譲り受け、約2年間訓練をして必要な動作を身に付けさせる。飼いたい障害者から応募があれば、犬とを引き合わせ、指示の仕方や普段の飼育方法などを身に付ける「合同訓練」を4~5カ月間実施。その後、厚生労働省の指定施設で認定試験に合格すれば晴れて引き渡しとなる。

介助犬は多くの場合、障害者から申請を受け各都道府県が給付する形となる。1頭を育てるのには約300万円の費用が必要。愛媛県では年1頭分の予算を確保しており、約200万円の委託料を支給しているが、残りは「寄付金や、それでも足りない場合は資金を持ち出してなんとかやりくりしている状態」(砂田さん)。

障害者側も給付決定までは費用は掛からないが、その後受ける認定試験の費用は実費。さらに厚生労働省指定の試験場は全国に3カ所しかなく、西日本では神戸市のみ。試験は丸一日かかり、障害者は移動や宿泊にも介助者が必要なため大きな負担に。供給側と利用者側の金銭的負担の大きさが、介助犬普及のネックになっているという。

それでも、砂田さんは松山市で10年以上活動を続けてきた。「障害者の方は介助犬を持つと明るい表情になるし、居ない生活は考えられないと言ってくれる。その声がやりがいにつながっている」と話す。介助犬の普及啓発のためにイベントへの出展などを地道に続けているほか、現在は認定試験が実施できる中四国初の指定を得られるよう準備を進めているという。

こうした長年の活動が、ささやかな親切や思いやりのある活動を続ける個人・団体を顕彰する「小さな親切」運動愛媛県本部(事務局・伊予銀行)の目に留まり、昨年7月に「小さな親切」実行章を受章。また、同年度の受章者の中でも特に素晴らしい取り組みに対し贈られる「尾山賞」にも選ばれた。

今年6月に行われた表彰式では大塚岩男代表が「障害者により豊かな人生を送ってもらいたいと、介助犬・聴導犬の育成や認知度向上に取り組まれ、その熱意あふれる活動は多くの人々に感動を与えている」と称賛し、砂田さんに表彰状を手渡した。

砂田さんは「受賞で介助犬を知ってもらう機会も増えてありがたい。障害者のよりよい生活のためにもっと介助犬を飼うハードルを下げられるように活動していきたい」と力を込めた。(前川康二)

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