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憂鬱な梅雨も読めば気分も晴れやかに 呼び名や気配の情緒感じる「雨辞典」「雨小説」 書店バックヤードから

産経ニュース / 2024年6月16日 11時0分

北山建穂著『四季彩図鑑 雨と風と光の名前』(みらいパブリッシング)

空は灰色で、湿気が全身にまとわりつき、歩けば足元がぬれる。今回は何かと憂鬱な気持ちになる「雨」がテーマです。日本語には、季節や心情によって異なるさまざまな雨の呼び名がありました。本を読んで昔の人が雨に感じた風情を知れば、気持ちが少し変わるかも。(司会は文化部、藤井沙織)

座談会メンバー

佐々木梓さん(ジュンク堂書店大阪本店)/百々典孝さん(紀伊国屋書店梅田本店)/大橋崇博さん(流泉書房)

一風変わった雨の「辞典」

藤井 雨にまつわる言葉を解説した本と物語がそれぞれ3冊ずつありますね。佐々木さんの選書はずばり、『雨のことば辞典』(倉嶋厚、原田稔編著/講談社学術文庫)。

佐々木 すごいロングセラーの本で、八重雨(やえあめ)や秋雨(あきさめ)、氷(ひ)雨(さめ)など雨にまつわる千以上の言葉がひたすら載っています。雨を表現する日本語の多さにびっくりします。慣用句の「アリの引っ越しは雨」に「理由はわからない」ときっぱり書いていたり、ゲリラ豪雨の特徴を解説したりしているのも学術文庫っぽい。

藤井 五十音順に載っているのがまさに辞典。でも解説の言い回しがちょっと面白かったりしますね。百々さんの選書も雨にまつわる言葉の本ですが、また印象が違います。

日本人の感性に触れる

百々 『雨を、読む。』(佐々木まなび著/芸術新聞社)。季節や時間帯なんかで分けて雨の呼び名を紹介しているんだけど、特に「五感の雨」の章がすごい。雨に匂いや色まで感じるのは、日本人ならではじゃないかな。梅雨の雨音を「梅のつぶやき」とか。こんなことを、昔の人は思ってたんやな。

藤井 浮世絵のようなイラストが、言葉の持つ気配と合いますね。佐々木さんのもう一冊は写真集です。

写真に感じる雨の「色」

佐々木 『四季彩図鑑 雨と風と光の名前』(北山建穂著/みらいパブリッシング)。さっきの辞典にも出てきたいろいろな雨の呼び名と、その雨を撮った風景写真が載っているので、読みやすいかなと。

藤井 雨って、こんなに美しいんですね。

佐々木 雨の写真集って、結構たくさんあるんですよ。

藤井 青梅雨(あおつゆ)や白雨(はくう)の写真は色を感じ取れます。こうして名前を知ると、雨が降るのも少し楽しみになりますね。時に災害にもなりますが…。

百々 日本人は、雨を恵みをもたらすものとしても、恐ろしいものとしても付き合ってきたから、雨の言葉が多いんでしょうね。雨だけで本が一冊作れるのがすごい。

心のほとんどは水分です

藤井 では、雨の物語にまいりましょう。大橋さんの一冊は児童書ですね。

大橋 『雨ふる本屋』(日向理恵子作、吉田尚令絵/童心社)。お使い帰りの主人公がカタツムリに誘われて、雨の降っている不思議な本屋にたどり着く。そこでは、完成しないまま忘れられたお話に雨をかけることで、本ができあがっていく。それを知った主人公の冒険が始まります。

藤井 本に雨をかけるという現実ではやってはいけない設定なのに、不思議な説得力がありますね。

大橋 すごいおしゃれですよね。学校の図書室によく置いてあるので、子供たちが読んだら、本を好きになってくれるんじゃないかな。

藤井 体と同じく心もほとんど水分でできている、という表現が印象的です。

百々 言われてみれば納得やな。波紋が広がるとか、容量とか、あふれるとか言うもんな。

お仕事の日は、いつも…

大橋 もう一冊は『死神の精度』(伊坂幸太郎著/文春文庫)。死神が指定された人間を1週間調査して、その生死を決める。主人公の死神が仕事をするときは、いつも雨が降っている。映画化したとき、主演の金城武さんが傘を持って立っているポスターが印象的でした。調査する人間6人分の6つの短編集。一話ずつで完結していてそれぞれ面白いんですが、最後につながる話もあって、なるほどな!ってなります。

湿度に感じる不穏な気配

百々 僕のもう一冊は『梅雨物語』(貴志祐介著/KADOKAWA)。3編のホラーミステリーで、どれも雨のシーンから始まります。1話目の「皐月(さつき)闇」は、自ら命を絶った青年が残した13の俳句に隠された意味を、元教師の俳人が読み解いていく。ミステリーの難易度はそんなに高くなくて、「読めた」と思わせられるんですが、これは筆者のわな。油断したところで、最後に恐ろしい真実にたどり着く。

藤井 雨が降っているという描写だけで、室内の場面にも湿度を感じます。雨の名前や写真はきれいですが、やっぱり不穏な気配との相性もいい。行楽日和のお天気だったら、お話の印象が変わりそう。

大橋 確かに。死神が猛暑日に汗だらだら流しながら、タンクトップで調査していたら嫌ですもんね。

佐々木 そう思うと、雨にはいろんな情緒がありますね。

百々 雨の名前や降り方を知ってからだと、物語の景色がより思い浮かんでいいかもしれないね。

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