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戦艦大和、紫電改…大戦の「封印された映像」 自費で収集・公開する郷土史グループの信念

産経ニュース / 2024年8月8日 8時0分

米国立公文書館が所蔵する先の大戦中の映像を収集、日米の戦闘報告書と突き合わせて時期や場所を特定、平成23年から毎年発表している大分県宇佐市のグループがある。今年5月にも旧海軍の戦艦大和が米軍機の攻撃を受ける映像を公開するなど累計で230本以上にのぼる。心が揺さぶられる映像が多いが、中心メンバーで、同市職員の織田祐輔(おりたゆうすけ)さん(37)は、「見る人自身の判断にまかせたい」と一切、論評を加えないことを信条としている。

映像は日本の本土空襲や太平洋戦域での戦闘を、米軍機に装備されていたガンカメラや機内の手持ちカメラで撮影したもの。米国立公文書館のウェブサイトにアクセスして検索、閲覧、有料で入手している。

当時、戦果の誤認を防ぐために撮影された。とはいえタイトルや説明が内容と一致していないもの、別の場所で撮られたフィルムをつなぎ編集されたものも多いなど、ずさんな作業も多い。

そこで日米双方の戦闘報告書と突き合せて撮影日時、場所、艦船や航空機を特定していく。日本の防衛研究所や国会図書館資料や元将兵らでつくる戦友会の会報にあたることもある。

米国立公文書館の所蔵する映像史料は膨大だ。その中から見たいものを検索するだけで相当な時間がかかってしまう。

「給料をやり繰りして捻出した購入費用を元手に発注をかけ、3カ月ほどたってようやく届いた映像の内容を確認した際、思っていた映像が入っていなかったときの失望感は言葉で言い表し難い」と織田さん。その場合「買わずに後悔するより、買って後悔してよかった」と自分に言い聞かせている。

平成23年から収集を始め、これまでに336本、約54時間分を購入。今の為替レートで1300万円以上かかったという。解析作業が終わり、公開するまでに最長9年かかった映像もある。

それでもやってこられたのは「史実を明らかにするという研究者としての使命感があったから。研究を継続しているからこそ他の研究者との知己が得られ、その方々から教えていただいたさまざまな情報を基に研究を深化させることができた」と振り返る。

織田さんが参加するグループは「豊(とよ)の国(くに)宇佐市塾」。同市ゆかりの偉人に関する郷土史の「発掘、保存、伝承」を目的として活動している。創設された昭和62年から大相撲の横綱、双葉山や小説家の横光利一らに関する書籍を出版、講演会や資料展を開催してきた。

同市には宇佐海軍航空隊の飛行場があったことから、宇佐空襲の映像を米国立公文書館で発掘。そこから米軍の映像収集と解析が始まった。毎年1、2回、発表会を開催し、メディア取材も受けている。公開した映像は平成23年から13年間で計230本を超える。

今年5月に公開した映像は17本。昭和20年2~8月に、北海道や沖縄など12道県で撮影された。この中の1つに戦艦大和が3月19日、山口県岩国市沖で米軍機から攻撃を受ける場面が写っていた。

過去に発表された映像には20年5月4日、鹿児島県の喜界島周辺の空域で撮影された海軍戦闘機「紫電改(しでんかい)」との空戦もある。

織田さんは少年時代は鉄道ファンだった。書店の棚で鉄道本をあさるうちに近くにあった軍艦や戦車、戦闘機の本にも自然と目が行くようになったという。戦後50年の年、陸軍の軍属だった祖父から戦争について話を聞いたことがきっかけで戦争について調べたいと思うようになった。

高知大学人文学部へ進み、歴史を専攻した。「大学はサラリーマンの予備校ではない」という当時の大学の指導教授の言葉が今も忘れられない。必ず答えがあった高校の勉強とは違い、研究に答えはなかったが、研究の楽しさに目覚めたという。

教授は「歴史は政治に利用される。利用されてもいけないが、利用もするな」と教えてくれた。自らも研究者の使命は史料を明らかにし、公開することにあると考える。

「自分のコメントはつけない。つけるとイデオロギーになるから。判断は見る人にまかせたい。見る人が考えてくれたらいい」

来年は昭和100年、戦後80年にあたる。「日米双方の史料をさらに収集して大戦後半における航空戦を明らかにし、それをまとめた書籍を刊行してみたい」と意欲を見せる。(安東義隆)

豊の国宇佐市塾が発掘、解析した主な映像

昭和20年

・3月18日の大分県宇佐市の海軍宇佐飛行場への空襲

・3月18日の大分県佐伯市沖の「呂号第五百潜水艦」への空襲

・3月18日の鹿児島県鹿屋市の海軍鹿屋飛行場への空襲

・3月19日の愛媛県松山市の海軍松山飛行場への空襲

・3月19日の山口県岩国市沖での戦艦「大和」への攻撃

・3月29日の鹿児島県南九州の陸軍知覧飛行場などへの空襲

・4月7日の愛知県名古屋市の三菱重工業名古屋発動機製作所への空襲

・4月11日の空母「ヨークタウン」艦上で撮影された第721海軍航空隊所属機(零戦)との対空戦闘(カラー版)

・4月14日の沖縄県那覇市の首里市街地への空襲

・4月16日の沖縄本島近海での第5神風桜花特別攻撃隊所属機(桜花搭載の一式陸攻)との空戦

・5月4日の鹿児島県喜界島周辺での第343海軍航空隊所属機(紫電改)との空戦

・6月5日の兵庫県神戸市の市街地への空襲

・7月24日の奈良県王寺町の関西本線王寺駅への空襲

・7月28日の広島県江田島市沖に停泊中の重巡洋艦「利根」への空襲

・8月8日の福岡県久留米市の国鉄荒木駅への空襲

・8月9日の日本本土近海での第7御楯隊第2次流星隊(流星)との空戦

※同塾HPから作成()は航空機名

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