希少魚カイワリ×マアジの養殖独自品種にすし職人もうなる 千葉・南房総でブランド化へ
産経ニュース / 2024年9月15日 11時0分
アジ科の希少魚「カイワリ」と「マアジ」を掛け合わせた独自品種の養殖事業が、千葉県南房総市で始まった。同県館山市に本社を置くベンチャー企業「さかなドリーム」が、南房総市を拠点にする岩井富浦漁協の協力を得て実現した。脂が乗りながらもすっきりとした後味が特徴で、「天然志向」のすし職人もうならせる。ふるさと納税の返礼品としても検討されており、地域活性化にも一役買いそうだ。
成長はマアジの1・5倍
「カイワリ×マアジ」は魚類研究の権威、東京海洋大の吉崎悟朗教授らが開発した。
精子や卵の元となる生殖幹細胞をドナー(提供者)とは異なる種類の魚に移植することで、その魚を代理の親とし、ドナー由来の精子や卵をつくる「代理親魚技法」を駆使した。
こうした魚を広く社会に普及させようと昨年夏、さかなドリームが創業した。
養殖は岩井富浦漁協が持つ区画漁業権を活用。富浦漁港から数百メートル離れた8メートル四方のいけす2基で今年5月から約4千匹を育てる。同漁協で1年ほど「カイワリ×マアジ」を育て、さかなドリームが買い取る段取りだ。
上品な味わいだけはなく、独特の養殖臭がないのも特徴だ。臭いが付きにくい魚種で、高価な餌を使って育てていることが奏功したと考えられるという。
成長の早さはマアジの1・5倍。成魚に育つ来年春から夏にかけ、東京の豊洲市場や地元の宿泊施設などへの出荷を計画する。
価格は天然アジを上回る1キロ3千円を目指す。南房総市は、ふるさと納税の返礼品として扱いたい意向だ。
地域のにぎわいも創出
かつて富浦漁港では養殖業が盛んだった。だが、台風で網が流されるといった被害が相次ぎ、手を引くことを余儀なくされた経緯がある。
今回は、いけすの数を少なくすることで、台風接近時、漁港内に迅速に魚を避難できるようにした。
いけすなど資材の調達費用はさかなドリームが負担。漁協側の「高齢化や担い手不足を解消し、活力を取り戻すきっかけがほしい」との思いもあり、協力に至った。
同漁協の鈴木直一組合長(76)は「水産関係の雇用が増え、地域のにぎわいの創出につながればいい」と期待を寄せる。
さかなドリームの細谷俊一郎CEO(32)は「これまで水産の領域で一次生産者と深く協力する企業は少なかった。われわれの取り組みが新しいモデルケースになれば、国の食を支える方々の応援にもなる。『この魚を食べるために来た』といわれるような存在にしたい」と語る。
「不可能」はチャンス
「高級魚というのは決まっているんだよ。これから作れるものではない。絶対にうまくいかないよ」
今回のビジネスの構想を練り上げていたとき、豊洲市場の仲卸業者にかけられた言葉が細谷CEOの心に火をつけた。
「水産のプロが『不可能だ』というのは、逆にチャンス。自分たちは不可能ではないと思っている」
理由はある。今や高級魚としての地位を確固たるものにしているノドグロ(アカムツ)。「もともと、ある程度の人気はあったが、全国的に爆発的なブームが起きたのは、平成26年にテニスの全米オープンで準優勝した錦織圭選手が帰国後の記者会見で『ノドグロを食べたい』と発言したことがきっかけだった」(細谷CEO)
高級魚と呼ばれるには抜群においしい魚であることが前提だ。細谷CEOにはたとえ養殖ものでも、味には絶対の自信があった。だからこそ、強気の価格を設定した。
うまくブランド化し、販路を開拓できれば、高級魚として浸透するのも不可能ではないと考える。
日本の漁業の生産量は最盛期の3分の1まで減少。衰退に歯止めがかからないなか、養殖業には食料危機の救世主としての役割が期待される。
とはいえ現状は厳しい。魚粉などの餌代の高騰が続き、天然魚よりも安い相場価格が決まっており、収益性が乏しいためだ。
ただ、「カイワリ×マアジ」は天然に存在しない魚であり、価格に天井はない。「安く太らせる」という養殖の常識を覆す可能性もある。
細谷CEOは「養殖は何か新しい仕掛けをしていかなければ厳しい。われわれの取り組みは亜流だが、新しい風を養殖の領域に吹かせたい」と意気込む。(松崎翼)
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