日本一標高の高い蒸留所がウイスキー初製品 静岡の南アルプスが醸した〝味と香り〟
産経ニュース / 2024年11月13日 11時0分
標高1200メートル、日本一標高が高いところにある蒸留所で作ったウイスキーが登場した。製造するのは特種東海製紙グループの十山(静岡市葵区)が運営する「井川蒸溜所」。現地は建設問題で揺れるリニア中央新幹線静岡工区の地上部付近にあたる大井川の源流部で、冷涼かつ湿潤な自然環境や仕込みに適した湧水にも恵まれたウイスキー製造の〝好適地〟だ。製造開始から4年。新たな静岡発のウイスキーに注目が集まっている。
「バランスがよく上品」
「自然と向き合いながらウイスキーづくりを追求してきた」
井川蒸溜所の関係者は、第1号となる製品を前にこう話す。作ったのは、原料が麦芽(モルト)だけの「モルトウイスキー」の中でも、単一の蒸留所でつくられた原酒のみ使用した「シングルモルトウイスキー」。この種のものは、その蒸留所の個性やこだわりが色濃く反映されるという特長がある。
英スコットランドの法律では、少なくとも3年の熟成期間がないとウイスキーを名乗れない。発売する製品はバーボン樽で3年以上熟成した〝ウイスキー〟。良質な水、長期熟成に適した環境が生み出した第1号製品は、南アルプスが醸した〝味と香り〟ということになる。
この製品を試飲した静岡市葵区内のバー「Muse Amuse(ミューザミューズ)」のバーテンダー、村田祥一さんは「木々を感じる爽やかさ、華やかさのなかに、ほのかなビター感がある。バランスがよく上品で、これからの熟成にも期待したい」と評した。
県内中心に供給
十山では、同製品を「井川蒸溜所シングルモルトデッサンシリーズフローラ2024」と名付け、11月中旬から約6000本を販売。まずは静岡県内の酒販店やバーなどを中心に供給する考えだ。
同社の鈴木康平社長は「第1号製品は(ウイスキー特有のスモーキーな香りがない)ノンピートだが、順次ピート香のあるタイプも投入。12年などの長期熟成に向けた樽も確保することにしている」という。近年は新設が相次ぎ、国内のウイスキー蒸留所は100カ所以上にのぼるが、クラフトウイスキー愛好家も多い。静岡市内でははやくも「〝味見〟に来る観光客が増えるかもしれない」(飲食店関係者)と期待する声が聞かれる。
国産ウイスキーといえば、大手メーカーが手掛ける「山崎」(大阪府)や「白州」(山梨県)、「余市」(北海道)といった製品がよく知られているが、静岡県内にもキリングループが昭和48年に操業を開始した富士御殿場蒸溜所があり、「富士」などの商品を供給してきた。
ナイトタイムエコノミーの〝主役〟に
こうした中で、平成28年に新興のガイアフローディスティリング(静岡市葵区)が静岡蒸溜所を新設。令和2年12月からシングルモルトウイスキーなどの供給を始めている。
同社製品は、世界で最も権威があるとされるウイスキーの品評会「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」で、日本の少量生産シングルモルトウイスキーを対象とする「スモールバッチ」というカテゴリーでトップになるなど、高い評価を受けている。
静岡市内には地元製品ということから愛好者も多く、これを楽しみに来る観光客もいる。市内2カ所目となる井川蒸溜所の製品が新たに登場することで、ウイスキー産地としての静岡の魅力は増す。
地域観光分野の活性化、高付加価値化を進めるための一手として、夜間の経済活動の「ナイトタイムエコノミー」の充実が期待されるが、午後6時から翌朝の午前6時までの時間帯における飲食などのサービスや活動機会が欠かせない。ウイスキーは「ナイトタイムエコノミー」の〝主役〟である大人の嗜好(しこう)品。地元の飲食店などからの期待も高まりそうだ。
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