1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

子供の5人に1人がネット依存…自らスマホを手放す2泊3日「オフラインキャンプ」の効果

産経ニュース / 2024年11月3日 8時0分

クラフト材料の丸太切りを楽しむ参加者=奈良県吉野町

奈良県吉野町の野外活動拠点施設「吉野宮滝野外学校」。10月中旬にインターネットを遮断した「オフラインキャンプ」(同町など主催)が行われ、小学生から高校生まで大勢の子供たちが参加した。豊かな自然の中でハイキングやバーベキューを楽しむ一方で、スマートフォンを触る時間は制限され、オンラインゲームもほとんどできない。「スマホを無理やり取り上げるのではなく、自ら手放しメリハリある生活習慣を身につけてほしい」。主催者らはそう願う。

1日1時間の「スマホ部屋」効果?

参加者の一人、高校3年の横田壮真さん(17)は「中学の頃から不登校。でもネット上にはいろいろな友達がいて、みんな優しい。気づけば睡眠時間を削り、一日中オンラインゲームをしたりスマホが手放せない状態になった」。ただ、今の状態が好ましいとは横田さんも思っていない。「進路もあるので焦りや不安をいつも感じている」と打ち明ける。

<新型コロナウイルス禍による臨時休校で、子供たちのネット依存傾向は顕著になった。国立成育医療研究センターは、令和2年度から小中高生とその保護者を対象に「新型コロナウイルス感染症流行による親子の生活と健康への影響に関する実態調査」(郵送調査)を実施。昨年度調査(10~11月実施、子供1928人、保護者1991人)では、子供たちの約半数がネットを過剰に使用しており、約5人に1人がネット依存が強く疑われる状態に該当することが分かった」としている>

キャンプでは、アウトドアクッキングやアユのつかみ捕りなどの川遊び、いも掘りなどの収穫体験を実施。体育館では皆が手をつないで立ち上がったり、フープ回しを行う遊びなど、さまざまなプログラムを用意している。一方で、年齢の近い兵庫県立大ソーシャルメディア研究会の学生12人がメンターとなり、子供たちの悩みに寄り添い、ネット依存に関する話し合いも行われる。

また、1日1時間のみインターネットが使える「スマホ部屋」を開放するのも特徴だ。ただ、その時間帯には、同時にバドミントンやドッジボール、箸づくりなどのワークショップも実施する。初日は参加者ほぼ全員がスマホ部屋に入ったが、数十分後には1人、また1人と抜けていく。2日目はスマホ部屋に入ったのは4人のみ。最後は誰もいなくなった。

オフラインキャンプを提唱する兵庫県立大学環境人間学部の竹内和雄教授は「本人たちもネットを使いすぎているとわかっていてもコントロールできないのが現状。自然の中でのリアルな体験や仲間とのふれあいによって、子供たちの意識は外に向き、自発的にネットとの付き合い方を学ぶようになる」と話す。

保護者へのサポートも

竹内教授らは平成28年から兵庫県姫路市の家島諸島のキャンプ場で年に1度、夏に4泊5日のオフラインキャンプを開催。昨年からは豊かな自然環境に恵まれた吉野町でも期間を短縮して秋に2泊3日で実証実験を始めた。今年度は吉野町の取り組みが文部科学省の「青少年教育施設を活用した生活習慣等改善推進事業」に採択された。

自宅と会場の送り迎えを担う保護者へのサポートもあり、臨床心理士や精神科医による講座のほか、家族会のように親同士が普段の子供の様子を意見交換する時間も設けられた。

学校関係者からオフラインキャンプの実施を聞いて参加した神戸市の自営業の母親(46)は「中学2年の長男は機械に強く、小学6年のころから、気付けば親のクレジットカードから年間30万~40万円ほど使って、新たにスマホを購入したりする。SIMカードやパスワードを変更したり、スマホを隠しても、あの手この手ですぐに解読したり探し出す」と打ち明ける。このキャンプに参加することで、「自分の世界に閉じこもらないで、楽しい世界があることを知ってもらいたい」と期待を寄せる。

過度な依存を危惧してスマホを無理やり取り上げたり、隠したりする保護者も多いという。その隠し場所も「冷蔵庫」「押し入れの布団の奥」「(親の)職場」「東京出張に持っていく」などとさまざま。スマホ依存の根深さがうかがえる。

竹内教授は、コロナ下で自宅に待機せざるを得ない状況が続いたため、ネットがより身近になり依存傾向の子供が増え続けたと分析する。そのうえで「友人関係や学校の悩みなど、自分の力ではどうすることもできない壁に当たると、子供は身近なネット世界に逃げ込む。親がそこで叱ったりスマホを隠したりすると、ネット上にコミュニティーができた子供は唯一の逃げ場を失いたくないと必死になる」と指摘。そして、「親は、(自然や文化に触れさせるなど)さまざまな体験の機会を与えたり、子供たちが成功体験を少しずつ積み重ねて現実世界で自信を取り戻させることで、新たなライフスタイルも提案できるはず」と呼びかける。

小さな目標を立てよう

ネット依存の問題に詳しい神戸大学大学院医学研究科デジタル精神医学部門の曽良一郎特命教授は「(自身の抱える困難な)問題に立ち向かえない人たちが安らぎを求めて依存症になるのはネットも飲酒もギャンブルも同じ。1人で解決するのは難しく、家族や外部のサポートが必要となる。ネットにはまる前の気分転換や日々の過ごし方はどうだったのか、親子がともに振り返って行動を起こすことが改善の一歩となる」と話す。

また、依存傾向にある子供にとっては、手が届きそうな目標を立てることも効果的だという。吉野町で開催されたオフラインキャンプの終わりの会では、子供たちは将来の夢のため、自ら考えた小さな目標を発表。「週に2日か3日は外に出る」「午前3時にはネットをやめる」「週に2回は学校に行く」「朝決まった時間に起きる」など。その成果は、来年1月に開かれるフォローアップキャンプで発表される。

こうしたオフラインキャンプは、医療機関などが主体となって全国各地に広がっている。竹内教授が吉野町をオフラインキャンプの会場に選んだ理由には、自然環境だけでなく、修験道の聖地であり、紀貫之や松尾芭蕉が吉野の桜を詠んだりと歴史や文化的な背景もあるという。

同町教育委員会生涯学習課課長補佐の紙森智章さんは以前、自身の長男がいじめで不登校になった。そのとき、紙森さんの友人たちが手を差し伸べたことで立ち直ることができたという。紙森さんは、「親でも友達でもなく、子供たちに寄り添える昔ながらの近所のおじさんたちのような存在として、吉野宮滝野外学校を育てていきたい。スマホ依存症改善は自然豊かな吉野で、と思われるよう今後も活動を続けたい」と話している。(木村郁子)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください