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今夏の台風5号で初の事前放流、下流域の洪水回避に効果発揮 岩手県久慈市の県営滝ダム 深層リポート

産経ニュース / 2024年9月21日 8時0分

事前放流で氾濫を免れた長内橋付近=8月12日午後1時、岩手県久慈市(岩手県提供)

頻発する豪雨災害に対処するため、令和2年度から全国の多目的ダムと利水ダムで洪水調節用の空き容量を最大にする事前放流が可能になった。岩手県営の滝ダム(久慈市)は今年8月に県内に上陸した台風5号の大雨に備えて県営ダム初の事前放流を実施し、ダム周辺の洪水を未然に防いだ。達増拓也知事が「被害を極小化できた」と評価した今回の事前放流は、滝ダム関係者にとって平成28年に岩手県を襲った台風10号の「悪夢」との戦いでもあった。

8月8日午後6時47分、滝ダム管理事務所と県営ダムを所管する県の流域治水担当の職員に1通のメールが届いた。滝ダム上流の予測降雨量がダムの基準降雨量以上になったことを知らせるメールだった。

よぎった「悪夢」

ダムの事前放流は国のガイドラインでマニュアル化されている。国土交通省と気象庁はダム管理者向けにネット上で、ダム上流で降る84時間単位の予測降雨量を6時間ごとに提供。予測降雨量が各ダムで定める基準降雨量(下流で氾濫などの被害が生じるおそれがある規模の降雨量)以上に達すると、事前放流を開始するかを判断することになる。

ただ、予測降雨量は刻々と変化する。滝ダム管理事務所と県の流域治水担当は予測降雨量の推移を見守りながら8月9日正午に事前放流の実施を決定、発表した。同日午前3時の予測降雨量のうち連続する48時間雨量の最大量が400ミリ以上だったことが決定の大きな要因となった。

メールが届いてから約18時間。県の菊地博流域治水課長は「悪夢がよぎった」と当時を振り返る。台風5号の動きが、平成28年8月30日に観測史上初めて太平洋岸に上陸、記録的な短時間豪雨で県北部に甚大な被害をもたらした台風10号とオーバーラップしたからだ。

台風10号は上陸後に短時間で300ミリ近い記録的な豪雨をもたらし、死者24人、住宅被害約4300棟、川の氾濫や道路の損傷なども含めた被害額は約1440億円に上った。滝ダム下流域の長内川と並行して流れる久慈川が氾濫し、久慈市中心部が広範囲で冠水、住宅だけで床上浸水は843棟に達した。

ピーク水位低減

今回の台風5号も台風10号と同じ大船渡市に上陸、太平洋岸を中心に記録的な大雨となり、久慈市下戸鎖では24時間雨量が過去最高の368・5ミリを記録、台風10号の231ミリを大きく上回った。

滝ダムの事前放流は洪水調節用の空き容量を従来の600万立方メートルにする予備放流後の8月10日午前1時40分に始まり、1日で約690万立方メートルの空き容量を確保。12日午前10時23分から4時間近くダムを守るための緊急放流を余儀なくされたが、大きな空き容量の確保により、下流のピーク水位を新街橋で31センチ、長内橋で35センチ低減させ、氾濫を防いだ。

ダムの事前放流は東北では令和5年の秋田県に続いて2例目、国管理ダムでは例がない。「悪夢」を未然に防いだ今回の事前放流について岩手県はその成果を8月27日にネット上で公表。ダム関係者の間でも「参考になる」と注目されている。

ダムの事前放流 国土交通省の水管理・国土保全局によると、全国にある多目的ダムと利水ダムで貯水できる量は計180億立方メートル。このうち、発電や灌漑(かんがい)、水道など利水用の容量が圧倒的に大きく、洪水を防ぐための治水容量は約55億立方メートル。事前放流は利水容量の一部を治水容量に回して豪雨災害に備える考え方で、令和2年度にガイドラインが示された。

~記者の独り言~ 「悪夢がよぎった」。岩手県の菊地博流域治水課長の言葉が耳に残った。記者にとっても平成28年の台風10号は悪夢だったからだ。中心市街地が広く冠水した久慈市の取材を終えて帰る予定だった。ところが、「岩泉町の高齢者施設に氾濫した小本川の水が流れ込み、9人が死亡」との一報を受けて現場に駆け付けた。窓に流木が突き刺さった高齢者施設の惨状はまさに悪夢だった。事前放流が豪雨災害の未然防止に役立つことを祈るばかりだ。(石田征広)

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