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マグマ膨張で下り坂が上り坂に、火山噴火遺構で大地のすさまじい力を実感 北海道・有珠山

産経ニュース / 2024年9月4日 10時0分

平成12年の火山噴火で被災し、保存展示されている軽トラック=8月1日、北海道洞爺湖町の火山科学館(坂本隆浩撮影)

20年から50年おきに噴火を繰り返している北海道南部の活火山、有珠山。噴火口がある洞爺湖温泉周辺では、24年前に起きた噴火の被害エリアをそのまま「洞爺湖有珠山ジオパーク」として残し、減災教育や観光に活用する動きが進む。地元団体が今年度、試験的に導入した立ち入り規制区域を散策する「アドベンチャートラベル」のツアーは参加者から大好評で、運営団体は来年度の本格導入を目指している。

大地のうねり

洞爺湖温泉街の観光情報センター内にあるジオパーク推進協議会。その事務所から車でわずか5分の場所に「金毘羅火口災害遺構散策路」の入り口がある。普段は決められたルート以外の立ち入りは制限されているが、この日はガイドの同行を前提に特別許可を得て遺構内部を歩かせてもらった。

案内役を務めてくれたのは、洞爺湖有珠山火山マイスターの佐々木美穂子さん(47)。噴火前は普通の生活道路だったという場所に立ち、「ここは下り坂だったけど、地下のマグマが膨張し地面が最大70メートルほど隆起し、緩やかな上り坂に変わってしまった。大地のすさまじいパワーを実感する」などと解説する。

道路はアスファルト部分が階段状に損壊し、道路標識や電柱、ガードレールは大量の火山灰で埋まっている。生い茂った雑草をかき分ける獣道のようなルートをさらに進むと、まだ蒸気が噴出している噴火口や、地面が傾いて住めなくなった住宅、寺院など噴火当時の状況がそのまま残されていた。

同協議会の加賀谷にれ次長(49)によると、建物などの施設を遺構にするケースは多いが、「これだけ広い被災エリア全体の遺構は世界的にも珍しい」という。修学旅行生や外国人観光客などのガイドにも携わる佐々木さんは「火山噴火の跡を実際に見てもらい、万が一、自分たちのまちで災害が起きたらどうなるかを考えるきっかけになれば」と減災意識の醸成に力を入れる。

噴火遺構を利活用

全国には110の活火山があり、北海道ではこのうち20の火山が今も活動している。有珠山は20~50年おきに噴火を繰り返している。直近の噴火は平成12年。札幌市出身の記者は幼少期のころ、昭和52年噴火を経験した。当時は約60キロ離れた札幌の住宅街に火山灰が降り、道路や車に堆積した。大量の砂をかぶり、じゃりじゃりとした頭を何度も洗った記憶がある。

平成12年の噴火時は、周辺一帯の最大1万5千人あまりが避難指示・勧告の対象になったが、積極的な自主避難で人的被害はゼロだった。だが、インフラなどは噴出物やマグマ膨張による地殻変動で激しく損傷。地元ではあえて復旧せず、「火山噴火の災害遺構」として利活用を進める道を選んだ。

加賀谷さんは「この地域で起こった火山噴火を広い視野で伝えたい。地球がどのように動くことで火山噴火や地震といった自然災害が起きるのか。連動した活動が続く地球で私たちが暮らしていることを知ってもらえれば」と語る。

そうした自然の営みを多くの人に伝える火山マイスターは約70人が登録し、このうち40人がガイドなどで積極的に活動する。経歴はさまざまで教員や写真家、自治体職員、主婦など幅広い。それぞれが自身の体験や学習した内容を伝える役目を担う。減災や防災教育の大切さを挙げつつ、今年からアクティビティーや自然、異文化体験を楽しむアドベンチャートラベルの要素を組み込んだツアーを試験的に導入。利用者からは「リアルで貴重な風景を見ることができた」「普段入れないルートで丁寧なガイドをしていただいた」など手応えもあり、「多面的に感じることができる場所にしていきたい」と期待を込める。

減災文化との共生

より手軽に火山噴火を学べる場所もある。観光情報センターから徒歩5分の場所にある火山科学館だ。洞爺湖ビジターセンターに併設された洞爺湖町立の施設で、有珠山の火山噴火のメカニズムや歴史などを写真や映像、模型、体感装置などを活用して紹介。噴出物で破損した軽トラックを当時のまま保存展示したり、昭和52年噴火の状況を映像と音響で再現するコーナーも設置したりするなど楽しみながら火山噴火について学ぶことが可能だ。

「私たちは減災の文化を学び、火山の恵みと共生しながら生活している。そういう地域性を知ってもらいながら、アドベンチャーツアーを提供している場所として世界に発信したい」と加賀谷さんは話している。(坂本隆浩)

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