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歌川広重が描いた「田毎の月」 時代超え人々を魅了する棚田の陰に住民らのたゆまぬ努力

産経ニュース / 2024年6月23日 11時0分

晴れ渡った夜空に昇った月齢14.6の月と、それを映す姨捨の棚田=6月21日午後8時17分、長野県千曲市(石毛紀行撮影)

長野県千曲市の「姨捨(おばすて)の棚田」は「田毎(たごと)の月」の別名で知られ、「国の名勝」「国の重要文化的景観」「日本遺産」「つなぐ棚田遺産」の〝4冠〟を有する棚田だ。人々を魅了してきた「田毎の月」に心が奪われるのは、数百年かけて作り上げてきた膨大な人手と継続的な努力、そして見るための運が必要だからかもしれない。

物理現象としてあり得ない絵だが・・・

姨捨の棚田は冠着山(かむりきやま)(姨捨山)の山麓に広がる。市によると農道を含む棚田の面積は約55ヘクタール、田の枚数は約1800枚。16世紀中頃に斜面に田がつくられはじめ、江戸時代中頃の19世紀、標高800メートル超の千曲高原に灌漑(かんがい)用の大池ができたことで急速に棚田が整備されていった。

歌川広重が「六十余州名所図会」に「信濃更科田毎月鏡台山」を発表したのは嘉永6(1853)年。棚田の水面それぞれに月が描かれ「田毎の月」のイメージが全国に広まった。

実はこの絵、物理現象の「光の反射」を無視した絵だ。それぞれの田の標高が違っていても、水面はすべて並行であるため、月はどこか1つの田にしか映らないはずなのだ。

しかし、一瞬を切り取った絵ではなく、幅のある時間と空間を描いたイメージと受け取れば、見方が変わる。月夜の中、実際に棚田の農道を月の方を見ながら歩くと、月が田の水面を次々移動していく体験ができる。同時には見られないが、田ごとに月は映り、見られるのだ。

田植えあってこそ

月があれば田毎の月が見られるわけではない。田に水が張られていなければ映らない。水を張る前には、水漏れを防ぐための畔(あぜ)の修復が欠かせない。大型機械が入らず形もさまざまな田を維持するために、毎年、人手で一連の米作りの作業を行う必要があるのだ。

棚田の中心部約2・2ヘクタール、154枚の田について、市は「棚田貸します制度」の対象区画として、毎年棚田オーナーを募っている。29年目の今年は91組約500人がオーナーになった。田植えから収穫までオーナー自身で管理しコメを全量受け取る体験コースは77組。このうち3分の1が県外の人だ。

6月1日、棚田オーナーの田植えイベントが行われた。オーナーたちは家族や知人と訪れ、マイ棚田でコシヒカリの苗を一株ごとに手植えした。今年初めて参加したという長野市の女性(71)は「そのうち世界遺産にでもなってくれれば」と話し、棚田保全につながる田植えを楽しんだ。

棚田オーナーの米作りを14人のメンバーでサポートする地元農家のグループ「名月会」の柳沢秀一会長(74)は「田は1、2年放っておくと荒れてしまう。メンバーには80代の人も多い。それぞれ自分の田をまわすのも精いっぱい。若い人に入ってきてもらいたいが、担い手がみつからないのが課題」と話す。

稲が成長すると見られなくなる

毎年、田植え直後の満月前後に、「田毎の月」を撮りに訪れるアマチュアカメラマンの姿があるという。稲が成長してしまうと、水面が隠れて月が映らなくなるからだ。ただし雲が多ければ月は映らない。

今年は満月の前日、21日の夜が晴れになり、苗が生長する棚田に月の姿を映した。天気だけは努力ではなんともしがたい。満月の田毎の月を見るのは、運ということになる。

千曲市日本遺産推進室の担当者は「夜に訪れるときは、足元に気を付けて、安全第一を心がけてください。田に入ったり畔を壊したりすることのないよう注意を」と話している。(石毛紀行)

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