「必ず道は開ける」地方私大から一発合格でキャリア官僚となった35歳町長が伝えたい思い
産経ニュース / 2024年7月22日 9時0分
東大をはじめ難関大出身者が居並ぶ国家公務員の最高峰「キャリア官僚」の試験に14年前、合格者ゼロの地方私大から挑み、一発合格を決めた高江啓史(ひろふみ)さん(35)。法務省に採用され「孤独感とアウェー感が半端なかった」が、7年半の官僚生活などを経て今年1月には奈良県田原本町長に当時現役最年少で初当選した。「信じることで必ず道は開ける」。いわゆるエリートとは違う道を歩んだからこそ分かる思いを、夢を抱く若者に伝えたいと願う。
東大生の言葉が転機に
高江さんは、愛媛県南西部の宇和海(うわかい)と山に挟まれた愛南町出身。父親は町役場に勤め、2人兄弟の長男として平成元年に生まれた。
「地域に1校しかなく、ほとんどの生徒が進学する」という地元の県立高校へ進み、吹奏楽部でアルトサックスに熱中。全国大会を目標に夜まで練習と向き合う3年間を過ごし、県内にある松山大法学部へ推薦で入学した。
父親に倣って「将来は地元で公務員になろう」と思いながら、漫然と大学生活を送っていた19歳当時、海外を放浪する若者の姿を描いた沢木耕太郎のベストセラー小説「深夜特急」を題材にしたドキュメンタリードラマに触発され、「自分探しの旅に海外へ出かけるようになった」。そして大学3年の夏休み、滞在していたシリアのホステルで、経済産業省から内定を得ていた同じバックパッカーの東大生と出会う。
「福沢諭吉の難しそうな本を読んでいた。同世代なのに、視野が自分と違い過ぎた。議論するたびに刺激を受けた」
数日間を中東でともに過ごし、エジプトでの別れ際にこう告げられる。
「公務員になるならキャリア官僚の試験を勉強してみたら。啓史なら受かるよ」。憧れの存在の言葉が励みとなり、意思は固まったが、現実は厳しかった。
皆無からの挑戦「お前、正気か」
高江さんによると、松山大では当時から、公務員を目指す学生向けの講座があった。ただ、省庁の幹部候補生となるキャリア官僚の採用を前提とした「国家Ⅰ種」(通称・国Ⅰ、現在の国家総合職)試験に合格し省庁から内定を得た学生は過去に皆無。自治体の幹部職員を目指す「地方上級」や「国家Ⅱ種」(現在の国家一般職)の試験を主な対象としていた。
帰国後、翌年度の国Ⅰ受験について大学へ相談したところ、やはり講座が国Ⅰに対応していないと告げられた。大学職員の表情や口ぶりには「お前、正気か」という雰囲気がにじんでいた。
もちろん、相談できる卒業生も全くいない。「省庁の人事課に電話をして若手職員の方を紹介してもらったり、ネット上で見つけたインターンシップに参加したりして、手探りで情報収集をした」と振り返る。
試験まであと数カ月まで迫った時期。〝孤軍奮闘〟ぶりを見かねた講座の先生が特別に用意してくれたテキストや市販の過去問を解き続け、論文の定型文句をひたすら覚える日々が続いた。
「これまで全然勉強してこなかった私が毎日平均15時間は勉強した。しんどかったが、広い世界で仕事がしたいという思いが強くなっていった」
高江さんが臨んだ平成22年度の国Ⅰの試験区分は法律職。約1万人の申込者のうち合格者は約450人だったが、努力の甲斐あって上位から210番目付近で合格した。
最年少で町政のかじ取り役に
その後、官庁訪問と呼ばれる省庁ごとの選考で法務省に採用され、入省後は矯正局で受刑者の処遇や社会復帰に関する政策立案などに携わった。内閣官房への出向を含めると通算7年半をキャリア官僚として過ごした。
30年に大手監査法人へ転職し、令和2年には家庭の事情もあって、妻の実家に近い田原本町での幹部職員の公募に応じる形で採用された。副町長を経て今年1月に当時現役では全国最年少の34歳で初当選し、今は人口約3万人の町のかじ取り役を担う。
町政では自らの経験を糧に、教育を含む子供への投資には全力を傾けている。夢や目標の大切さを説きつつ、「他人が自分のことをどうこういうのは仕方ないが、自分で自分の限界をつくる必要はない。必ず道は開ける」と信じている。(岡嶋大城)
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