法隆寺500円、興福寺200円…苦渋の拝観料値上げ 世界遺産維持にもコスト増の波
産経ニュース / 2025年1月26日 12時0分
多くの文化財を抱え世界遺産に登録されている寺院を中心に拝観料の値上げが相次いでいる。一昨年には金閣寺(京都市、鹿苑寺)、昨年は東大寺(奈良市)が料金を改定し、今春には興福寺(同)や元興寺(同)、法隆寺(奈良県斑鳩町)が値上げを控えている。物価高などが続く中、広大な境内の維持管理費や堂塔の修理費などがかさみ、苦渋の決断を迫られている。
修理、防犯費かさみ
古都のシンボルである興福寺五重塔(国宝)のある境内にそびえる、巨大な鉄骨造りの構造物とクレーン。外国人観光客らが珍しそうに見上げながら通り過ぎていく。構造物は約120年ぶりの大規模修理となる五重塔を覆う素屋根(すやね)だ。
資材高騰の影響で当初の入札が不調だったため素屋根建設は半年以上遅れており、本体修理は来年度からとなる。
令和13年までかかる修理は屋根瓦のふき替えが中心で総工費は約57億円に上る。国宝・重要文化財に指定された建造物の修理には補助金が出るものの、残りの負担は所有者にのしかかる。
同寺の辻明俊執事長は「五重塔は興福寺にあるが、日本の宝でもある。自分の世代でバトンをつなぐと思っていただければ」と理解を求め、今後寄付も募るという。
寺では堂塔の修理に加え防犯対策にも費用がかかる。平成28年に国宝の仏像の台座などに液体がかけられる事件が発生したことから、堂内や国宝・阿修羅(あしゅら)像などを安置する国宝館内の人員を増やすなど監視体制を強化した。
かつて古都の大寺院は天皇、貴族らによって造営され支えられた。一方、現在の収入はほぼ拝観料に限られており、今春から東金堂と国宝館は200円値上げする。辻執事長は「たくわえの大切さを実感する。最後は歴史ある寺を守っていくという気概」と語る。
維持管理に危機感
法隆寺では昨秋に聖徳太子信仰の中心である東院伽藍(がらん)の夢殿(国宝)南側にある礼堂(重文)の修理が完了し、現在は東回廊(同)の瓦屋根のふき替えが始まっている。
「今回の修理の前は中門(国宝)、その前は大講堂(同)だった。休む間がない」と、同寺の大野正法執事長はいう。
約18万7千平方メートルという広大な敷地に国宝・重文などの木造建造物が立ち並び、多くの仏像を安置する同寺では常にどこかで修理が行われているような状態。美術工芸品を含めた国宝・重文約200件のほか、補助金を受けられない未指定品も多い。さらに、防災・収蔵設備などの改修も欠かすことができない。
一方、拝観者は30年前と比べると減少した。斑鳩町によると、平成4年度の拝観者数は約105万人だったが、修学旅行生の減少などで30年度は約59万人に。さらに新型コロナウイルス禍の令和2年度は約21万人に激減した。4年度は約58万人にまで回復したが、維持管理費を十分に確保できないため、寺は同年、クラウドファンディング(CF)で支援金を募った。
CFは想定を超える支援金が寄せられたものの一時しのぎに過ぎず、寺は物価、人件費の上昇、参拝者の減少を理由に拝観料を現在の1500円から2千円(伽藍共通)に値上げすることを決めた。大野執事長は「今後どこまで維持管理ができるか危機感がある」とした上で、「文化財の大切さを多くの人に理解してもらい、助けをいただきながら地道に守っていくしかない」と思いを込めた。
住職自らアピール
収入を拝観料に頼る古刹(こさつ)には、傷みが進む本堂の修理のめども立たない小規模寺院もある。
奈良市の平城宮跡東側の地域「佐保路」にある海龍王寺。古代からの歴史を刻み、国宝・五重小塔や重文・十一面観音菩薩立像で知られるが、拝観料だけでは市文化財の本堂を修理するための費用の積み立ては困難という。
「木の伐採や防犯・防災設備の維持などに費用がかさみ、大きな事業は難しい」と石川重元住職は打ち明ける。このため令和5年からインターネットのサイトに寺の歴史や現状を伝える漫画を掲載し、継続的な寄付を呼びかける活動を始めた。
石川住職は「イケてる住職」(イケ住)を名乗り、コミュニティーエフエム放送局の番組にも出演するなど、日頃から積極的に活動。海龍王寺の存在や佐保路の魅力を広く知ってもらおうとしている。
「住職が前に出てアピールしないと響かない。結局は人で、空海も行基も、その熱意にみんな惹(ひ)かれたに違いない」
石川住職は、そんな信念を持って受け継いだ古寺を守り続ける。(岩口利一)
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