「日本で一番ベトナム人が幸せに暮らせる」自治体 大学生がキッチンカーで母国の味を提供
産経ニュース / 2024年10月10日 11時0分
ベトナム人の住民が増えている岡山県で、同国からの留学生が提案した「日本で一番ベトナム人が幸せに暮らせる岡山」を目指したプロジェクトが進められている。環太平洋大(IPU、岡山市東区)が今年度、同大独自のキッチンカーを製作し運用をスタート。7月末にはベトナム人従業員が働く岡山市内の企業に出向き、岡山産パクチー(岡パク)を使った麺料理「フォー」を振る舞った。扇野睦巳特任准教授は「ベトナム人と、受け入れる企業の双方がお互いの食や文化、国民性などの理解を進め、友好を深めてほしい」と願う。
故郷の味楽しんで
7月末のある日の昼。岡山市中区にある金属加工メーカー「TANIGAWA」の事業所に登場したキッチンカーの前に従業員による長い列ができた。列にはベトナム人従業員に混じって日本人従業員の姿も目立った。
同社は従業員約60人のうち約20人をベトナム人が占める。キッチンカーの派遣は同大学生が進める「IPU MOBILITY」プロジェクトの一環。ベトナム人従業員が在籍する社員食堂を持たない企業への福利厚生支援として、母国の料理を提供する取り組みだ。
フォーはベトナム北部の代表的な麺料理で、米粉で作る平麺に鶏がらベースの透明感のあるスープ、具には鶏胸肉やパクチーなどがのる。この日はベトナム人留学生と日本人学生の混成チームが調理を担当。「岡パク大使」を名乗ってマイルドなパクチーを生産し、PRに取り組む同市内の農家、植田輝義さん(49)が賛同し、無償で提供された。
来日9年目、入社3年目のベトナム人の女性社員(28)は「職場で母国の料理が食べられるのはうれしい。少し日本人向けのあっさりした味に感じた」と笑顔。同社の篠原洋子執行役員は「大学生とも触れ合える。学生には当社や社風についても知ってもらい、距離が縮まれば」と期待を寄せた。
調理を担ったベトナムからの留学生で現代経営学科3年のレ・ヴァン・ミン・フイさん(21)は「故郷を思い出してもらえる味を目指した。笑顔がうれしい。多くのベトナム人が働いている姿を見て自分ももっともっと頑張ろうと思った」と満足そうな表情をのぞかせた。
理解不足など課題
プロジェクトは学内で昨年度に行われた「第8回ビジネスプランコンテスト」で特別賞に輝いたベトナム人留学生グループのアイデアが基になっていて、留学生8人を含めた現代経営学科の学生22人が取り組んでいる。
目的は県内全域で開かれるイベントへの出店などを通じ、ビジネスの実践的な学びや地域との交流を図ること。背景には少子高齢化などに伴う岡山県での生産年齢人口の減少、学内的には学生数の減少、さらにベトナムにおける岡山の低い知名度と、日本人学生のベトナムへの理解度の低さ、外国人労働者のホームシックなどの課題がある。
岡山県では技能実習生や留学生としての受け入れが進み、ベトナム人の住民が急増している。
県国際課によると、令和5年12月末時点の県内の在留外国人約3万5900人のうち、ベトナムは約1万1700人と3分の1程度を占め、元年に中国を抜いて以来最多が続いている状況だ。
在留外国人に占めるベトナム人の割合(5年6月末時点)は岡山県が32・4%で、47都道府県中で鹿児島県(35・4%)に次いで2番目に高い。
留学生起業も支援
少子高齢化や過疎化などで地方の働き手不足が一段と深刻化する中、実習生への期待は大きい。
多くの実習生は送り出し機関やブローカーに支払った仲介料など多額の借金を背負って来日している。言葉や文化の壁が立ちはだかる中、低賃金で働かされた末に失踪したり、犯罪に走ったりするケースも多い。令和4年には岡山市の建設会社で実習生のベトナム人男性が2年間にわたって暴行を受けていた問題が発覚。実習生への精神面を含めたフォローが不足しているうえ、認識不足による偏見や誤解も多い。
扇野特任准教授は「食と体験を通じて異文化交流を深める、外国人が働きやすい環境をつくる、日本人と外国人が共存し幸せに暮らせる岡山を目指したい」とプロジェクトの意義を強調。「1年ごとにメンバーが入れ替わるので、いかに継承していけるかがカギ。留学生は週28時間までのアルバイトしか認められていないが、キッチンカーで起業したいという留学生が出てくれば支援したい」と意気込んでいる。(和田基宏)
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