夫婦として闘病・介護生活も笑いに変えて 漫才に苦しみ、救われた「宮川大助・花子」
産経ニュース / 2024年9月19日 10時0分
花子が乗った車椅子を大助が押して舞台に登場し、2人とも座って漫才をする。夫婦漫才コンビ「宮川大助・花子」の掛け合いは、かつてほどの勢いはなくゆったりとしているが、笑いはしっかりと取る。がんの一種である多発性骨髄腫で闘病中の花子と、自宅で介護をする大助は今、生きることの苦しさと向き合いながら、漫才をできる喜びと夫婦の時間を満喫している。
花子は平成30年に腰椎に腫瘍が見つかり、翌年に多発性骨髄腫と診断された。現在も抗がん剤による治療中で、一日のほとんどをベッドで過ごしている。
花子が大助に立て続けに物事を頼んでは、「今座ったとこやのに!」「もう二度と頼まへんわ!」とけんかになる。韓国ドラマと時代劇とで、テレビを取り合う。そんな生活になって初めて、「宮川大助・花子」ではなく、「本名の、本当の夫婦の感覚になった」と大助。花子も「楽しいな、今」と穏やかに笑った。
2人は出会って3カ月で結婚を決めた。大助は花子に一目ぼれ。花子は「別にタイプでもないけど、出合い頭というやつやね」と振り返る。
結婚から3年後の昭和54年にコンビを結成するが、大助の誘いに、花子はなかなか首を縦に振らなかった。子供も生まれ、家庭が仕事に染まることを懸念したのだが、大助が「拝みまくりました」。
会話も仕事一色
結成からほどなく賞レースで受賞を重ねたが、花子は「早く売れたら、早く辞められるかなと思って頑張っていた」と明かした。夫婦の会話はほとんど、漫才コンビとしての会話。稽古にも明け暮れ、舞台帰りに大助が「ちょっと呼吸が違った」と言うと、子供が待つ家を前に、公園で何時間もネタ合わせをした。
花子が63年に胃がんで入院したとき、大助に「もっと健康な人と漫才したら」と離婚届を渡した。大助は両親に言われたある言葉を思い出し、すぐに拒んだ。
「漫才が原因で離婚したくなるようなことがあれば、漫才を捨てろ」
花子は大阪出身で、アマチュアの大会で優勝したこともある生粋のお笑い好き。一方、鳥取出身の大助は「出世して田舎の親を楽にしてやりたい」と思っていた。大助は仕事のために花子を追い詰めていたと気づき、妻のいない家で一人悔いたという。
夫婦漫才コンビとして再び舞台に戻り、再び受賞を重ねた。「勝ったらやっぱりうれしい。負ける気もしなかった」。平成29年、夫婦は紫綬褒章を受章する。長年にわたり夫婦漫才を続けていなければ、決して与えられないものだ。
受章が決まったときの記者会見。花子は大助に初めて感謝の言葉を伝えた。
「漫才に誘ってくれて、本当にありがとう」
大助は号泣した。花子に腫瘍が見つかる4カ月前のことだった。
2度目の恋愛中
昨年から復帰した漫才の舞台では、闘病生活を面白おかしく語っている。しかし、その裏では「生きることは、こんなにしんどいのか」と花子も、花子を見ている大助も知っている。
闘病が始まった頃、花子は朝、目覚めては「生きてたんか…」とつぶやいた。苦しみながら、また一日を過ごす。大助に促されマイナス思考はやめると決めたが、前向きでい続けることは容易ではなかった。
症状がやわらぎ、トイレや2階の寝室にも一人で行けるようになったときもあるが、昨年秋には右足を動かせなくなり、ほぼ寝たきりになった。
奮い立たせてくれたのは漫才だった。「もう一度、センターマイクの前に立つ」。そのためなら、つらい治療もリハビリも頑張れる。漫才に生かされていることに改めて気づいた。
たたみかける掛け合いは体力的に難しく、ゆったりとしゃべくる漫才にたどり着く。「ネタが何であれ、嫁はんは爆笑を取る」と大助が信頼を寄せる花子の話術と、長い年月をともにした夫婦の醸し出す空気が、笑いを生む。
私生活ではようやく「普通の夫婦」として過ごす中で、「2度目の恋愛の最中なんです」と大助。堂々たる告白を、花子もほほえんで受け止めていた。(藤井沙織)
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