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全国で半減するガソスタ、災害・過疎対策の切り札と注目される「どこでもスタンド」の存在

産経ニュース / 2024年12月28日 8時0分

ドラム缶からの直結を可能にした器具と横田勝好社長=兵庫県姫路市

ガソリンスタンドがなくても、タンクローリーがあればいつでもどこでもガソリンを供給できる移動式給油機「どこでもスタンド」。能登半島地震の被災地で、深刻な被害を受けたガソリンスタンドに設置されて8~11月の間、燃料供給を続け、当地の復興に大きく貢献した。機器を開発したのは、兵庫県姫路市の燃料供給会社「横田瀝青(れきせい)興業」。この期間中に、ローリーだけでなくドラム缶との直結でも給油できるよう改良し、きめ細かな運用が可能に。被災地だけでなく過疎地を救う「切り札」としても期待がかかる。

全面改修に3カ月「油を止めるな」

石川県輪島市の能登空港近くにあるガソリンスタンド「のと空港前セルフ給油所」。今年1月の地震で被災し、地下タンクの1つが使用不能になって営業を休止。応急処置を施して3月に再開したものの、本格的な修理をする必要があった。

全面改修には約3カ月かかるとされたが、空港周辺に他に給油所はない。「空港関係者をはじめレンタカー業者や観光客の利用だけでなく、空港内には消費生活センターなどの行政機関も複数あり、自治体からも『営業してほしい』と強く要請された」。給油所を経営する「協和石油販売」(金沢市)の中市隆幸社長(49)が話す。

改修中の燃料供給をどうするか-。悩んでいた6月下旬、中市社長はどこでもスタンドの存在を知った。8月16日から休業して工事に入ったが、8月18日に移動式給油機「どこでもスタンド」が到着。駐車場に横付けしたローリーとスタンドをつなぎ、再び営業することができた。

横田瀝青興業は、ローリーよりも少ない量のガソリンを詰めたドラム缶をどこでもスタンドと直結させる器具を開発。9月中旬に現地に届けられた。

「長期休業を覚悟していたが、どこでもスタンドに助けられた。復旧・復興に携わる車両の利用も多く、『油を止めるな』という思いだった」と中市社長。「当地の規模ではローリー1台分のガソリンは持て余してしまい、ドラム缶で対応可能になったのはとても大きかった。ローリーがふさわしい被災地、ドラム缶がふさわしい被災地がそれぞれにありそうだ」と振り返る。

11月中旬に改修工事を終え、仮設スタンドの営業も終了。12月2日からどこでもスタンドは、石川県珠洲市内にある同社の別の給油所で活用されている。

危険な手作業「何とかしたい」

ローリー直結でガソリンを供給できる唯一の装置、どこでもスタンド。開発のきっかけは平成23年3月の東日本大震災だった。

このとき大手通信会社の要請を受け、横田瀝青興業の横田勝好社長(63)らが約2カ月間にわたり、被災地での燃料供給支援に当たった。現地では給油所が水没したため、給油はローリーからドラム缶、さらに小型携行缶に移す手作業を強いられた。

「揮発性の高いガソリンは静電気でも引火しかねず、他の燃料に比べて極めて危険。何とかしたい」。この経験を基に大手計量器メーカーの協力を得て26年、試作機を完成させた。

その前年には、被災地の現状を踏まえて消防庁がローリーからの直接給油を容認するガイドラインを策定していた。同社は資源エネルギー庁の支援を受けてどこでもスタンドの改良を重ね、消防庁は30年、その使用を認める趣旨の通達を全国の消防機関などに出した。以後、各地の自治体や事業所、団体などで導入が進みつつある。

消防庁危険物保安室は「機器の安全性は確認済み。ドラム缶の直結運用については、安全を確保した上で地元の消防機関が承認すれば問題ない」との見解を示している。

372自治体が「ガソリンスタンド過疎地」

「ドラム缶から直結で給油できるようにした器具を開発したのは、過疎地対策が念頭にあった」。横田社長が言う。

資源エネルギー庁によると、ピーク時の平成6年度には全国に6万421カ所あったガソリンスタンドは昨年度末、半分以下の2万7414カ所にまで減少。「ガソリンスタンド過疎地」(自治体内の給油所が3カ所以下)とされる市町村は372自治体にのぼった。

同庁燃料流通政策室は「ガソリンスタンドは地域の燃料供給拠点として重要かつ不可欠なインフラ。廃業が地域の衰退につながる」と懸念する。

横田社長は今回の能登での活動を振り返り、「どこでもスタンドを使った仮設給油所は、30分もあれば設営可能。『とにかくガソリンスタンドがほしい』というニーズに応えられることが実証できた」と話し、過疎地対策の切り札としての手応えも感じている。

電気自動車(EV)の普及が進むが、その勢いは鈍化。一方で過疎地域での燃料供給はますます困難になることが予想される。「ガソリン需要がどう変化するか見通しづらいが、石油燃料の重要性は当面揺るがない」と横田社長。必要なときに必要な所へ燃料を届けられるよう、さらに普及を図る考えだ。(小林宏之)

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