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響く風車の野太い重低音 進む風力発電で道北は〝陣取り合戦〟激化、環境への影響懸念も

産経ニュース / 2024年6月26日 10時0分

樺岡ウインドファームの竣工式=5月23日、北海道稚内市(坂本隆浩撮影)

日本最北端のまち、北海道稚内市を含む道北エリアで近年、陸上風力発電所の計画や営業運転が相次いでいる。生成AI(人工知能)の急速な普及やデータセンターの拡大などに伴う電力需要の増加を背景に、国内随一とされる風況の良さから進出が加速しているのだ。5月下旬には国内最大の風力発電会社「ユーラスエナジーホールディングス」(ユーラスHD)が出資する「道北風力」による大型風力発電所2施設の竣工(しゅんこう)式も行われた。その報道公開に合わせて風発現場を取材した。

172基が回る〝風車銀座〟

稚内市の隣町、豊富(とよとみ)町で今年1月、芦川ウインドファーム(WF)北側区画の営業運転が始まった。羽根部分を含めて142メートルの高さがある風車が宗谷地方の丘陵地に16基並び、6万8800キロワットの電力を生み出している。

稚内市内から大型バスで同WFへ。曇り空にあっても車窓から羽根が回る様子がよく見える。それだけ風車の存在感は大きい。開発工事で整備された未舗装路を抜け、風車が立つ現地に到着すると、辺り一帯には野太い重低音が響いていた。当日は暴風警報が発令されるほどの強風で「風車の回転速度は上限いっぱい」(広報担当者)。最大出力で回転する羽根を見上げながら風況の良さを実感するが、点在する風車の多さにも圧倒される。

このWFは来年春に南側区域(風車15基・6万キロワット)の営業運転が始まる予定。南北両区画12万8800キロワットのフル出力は道北地方でも大きい。

道北地方では稚内市の風車数が最も多い。市の集計によると、営業運転を始めた風力発電所は12カ所で、風車の数は172基(48万7830キロワット)を数える。建設中の2カ所(13万2200キロワット)と、環境影響評価(アセスメント)中の8カ所(186万9300キロワット)を含めると、全体で248万9330キロワットとなり、国内最大の風力発電エリアとなる見通し。

稚内市と豊富町を結ぶ道路を走ると大小さまざまな風車が視界に入り〝風車銀座〟を実感する。その数がさらに増えるのは既定路線だ。

バードストライクも課題

経済産業省が3年前に発表した第6次エネルギー基本計画では、2030(令和12)年の温室効果ガス46%削減=13(平成25)年比=に向け、陸上風力は17・9ギガワット、洋上風力は5・7ギガワットなど再生可能エネルギーを拡大する方針が掲げられている。電源構成も09(平成21)年度時点の20%から、30年度は36~38%と倍近くまで引き上げる意向。太陽光よりも安定した商用電源が得られる風力発電への期待は大きい。

ユーラスHDは風力発電のメリットとして、温暖化の要因の一つとされる二酸化炭素(CO2)の排出ゼロ▽高い設備利用率▽エネルギー自給率向上に寄与▽夜間稼働が可能―を挙げる。

一方、デメリットは風向きや風力の変化で発電量が安定しにくいことや、定期メンテナンスにコストがかかることなどがあるという。騒音や低周波音の問題もあり、同社は「一定程度の配慮が必要」としている。

道北地方は渡り鳥の中継地となる湿地などが点在し、鳥が人工物に衝突する「バードストライク」も課題だ。環境省が5月に発表した国内希少動植物の傷病個体の収容結果によると、令和5年度は8羽のオジロワシが回収されている。データが残る平成12年度以降では令和元年度に並ぶ過去最多タイという数字だ。

エリア内には絶滅危惧種も

自然などへの影響について同社は「事前調査に基づく予測と結果を地元自治体、環境省と経産省の専門家に提示。勧告内容に沿って事業を進める」と語る。

同社は稚内市などで新たに100万キロワットの風力発電所新設を計画中。建設エリア内の猿払川水系には絶滅危惧種の淡水魚「イトウ」が生息しているとして、地元有志らが河川への土砂流入による影響を懸念して中止を求めている。

限りある風況適地は事業者による「陣取り合戦」の様相を呈しており、地元からは「環境影響調査が十分ではない」「懸念がある以上、計画中止を」などの声が上がる。

同社の諏訪部哲也社長は産経新聞の取材に「地元住民などがいろいろと懸念を持っていることは承知している。丁寧な対話と調査結果を地域住民に開示して理解を求めながら必要な見直しを進めていきたい」と話している。

地域住民と共存を

5月下旬に稚内市の丘陵地で執り行われた樺岡WFの竣工式。立地自治体を代表して出席していた工藤広市長は「開発か、保全かという二者択一を地方行政が担っているわけではない。地域の優位性をいかして脱炭素に貢献するという一点で事業者と協力してきた」と実績を強調する。

風況が良いという評価がある一方、自然環境への影響や送電環境の脆弱(ぜいじゃく)さなどの課題も挙げて「長い時間をかけて一つずつ解決し、地域住民との共存を念頭に事業展開をしている。今までもこれからも変わらないし、次の世代にもつなげていく」と意欲を見せた。

同市に寄せられた風発関連の市民相談件数は令和4年度、5年度ともに1件。土地問題や騒音関連に関する内容だが「事業者側に伝えてすべて解決済み」(担当者)。6年度は5月末現在1件で現在対応中。事業者に寄せられる相談件数は「必要があるなら確認するが、対応していると聞いており問題ない」とのスタンスだ。

ユーラスHDに問い合わせると騒音などの相談はあるが、件数は非公表。相談者には個別対応で解決につなげているといい、「地域住民や自然保護団体、知事の意見書などを反映したものを経産省が勧告として出しており、その内容に沿って対応している」(広報担当者)。今後は地域住民に対する説明会の機会を増やすことも検討する考えを示している。

現地を歩くと、風発が日常生活に影響しているという話を複数聞いた。設置を推進する地元の雰囲気が強く、「流れに逆らうような意見は出しにくい」との声もあった。意識して拾い上げなければ潜在化しかねない懸念をはらんでいる。

温暖化対策に効果があり、需要が増える都市部に電力を供給し、地域には税収増や雇用創出などの効果が期待されている風力発電。その工事が進む稚内市の丘に立ちながら、より丁寧な対話が進むことを強く願った。(坂本隆浩)

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