1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

NYタイムズ「行くべき52カ所」選出の山口市 思ったより乏しい観光効果と今後の課題

産経ニュース / 2024年9月9日 10時0分

改修工事前の「瑠璃光寺五重塔」=平成29年

米紙ニューヨーク・タイムズが今年1月に「2024年に行くべき52カ所」に山口市を選んでから半年以上が過ぎた。昨年選ばれた盛岡市は新型コロナウイルス禍の規制緩和もあり、国内外から多くの観光客が訪れ、その流れは今も途絶えない。風光明媚(ふうこうめいび)な「西の京」と呼ばれる山口市はどうか。実際に歩いて変化を探ってみた。

8月下旬、山口市は炎天下だった。同紙で紹介された湯田温泉があるJR湯田温泉駅に降りたが、最高気温37度超の猛暑日もあって観光客の姿はほとんどいなかった。駅前の食堂で昼食を取りながらおかみさんに地元の様子を聞くと、「なんちゃーない(何もない)」と顔をしかめた。観光客の増加を見込んだが、思ったよりも客足は伸びていないという。

市内随一の観光スポットである国宝「瑠璃光寺五重塔」の最寄り駅となるJR山口駅には地元のお祭りの写真をあしらい、「2024年に行くべき52カ所」と書かれたポスターがはられており、地元の期待を感じる。ただ、ここでも働く人たちの実感は乏しい。タクシー運転手は「ほとんど影響はありませんよ。欧米系の観光客が少し増えたぐらいかな…」と話す。

駅からタクシーで緑豊かな市街地を抜けて10分で香山公園に到着した。目玉となる「瑠璃光寺五重塔」は70年ぶりの大規模改修工事中で、工期は令和8年秋まで。こちらも観光客はまばらだった。近くにあるカフェの女性スタッフは「米紙掲載の効果は思ったよりもないですが、頑張ります」と苦笑いだった。

観光地で働く人の多くが経済効果を実感できていないようだが、この肌感覚は数字でも裏付けられている。山口市の湯田温泉旅館協同組合によると、今年1~7月の国内外の観光客数(修学旅行など除く)は前年比3・2%減の19万1295人と微減していた。

インバウンドに限ると、同約43・1%増の8561人に伸びた。これまでインバウンドの中心は台湾と韓国が中心だったが、欧米の観光客は同33・8%増の922人で、米紙掲載の効果といえそうだ。

ただ、昨年選ばれた盛岡市に比べると、物足りない印象がある。「いわぎんリサーチ&コンサルティング」(盛岡市)は、盛岡市の令和5年度の外国人客数は平成30年度に比べて6万人以上、経済波及効果は18億円以上それぞれ増えたとの推計をまとめた。

山口大経済学部の加藤真也准教授は今年5月、盛岡市のデータを参考に産業関連分析という手法で経済効果を算出し、山口県全体に90億円の経済効果をもたらすと見積もった。今年1年間で山口市への観光客数は91万2千人に増え、そのうちインバウンドが5万5千人を占めると推計した。

だが、実際の数字は推計結果よりも厳しいようだ。加藤氏は「5月のゴールデンウイークまでは国内外から観光客が来ていたが、それ以降は効果が剥落し、今となってはそれ自体、忘れられている」と分析し、官民一体となったプロモーションの重要性を指摘した。

山口市では米紙掲載後、市を推薦した米国出身のライター、グレイグ・モドさんと伊藤和貴市長が対談したり、福岡市地下鉄に中吊り広告を掲載したり、広島市内のホテルにクーポン付きのチラシを配布したりしてきた。山口市の担当者は「ジワジワ増えてきている」と話すが、ポテンシャルを伸ばし切れていない。さらに交流サイト(SNS)での発信を強化するため、山口市は山口大と協力し、市公式動画チェンネル「やまぐちゃんねる」を改善する計画だ。

外からの誘客に苦労し、思ったような経済効果を得られていない山口市だが、街を歩いて感じたのは人の温かさだ。モドさんは推薦理由を「住民が温かく兄弟のように感じた」と説明した。実際、街を歩くと、すれ違う人が明るくあいさつしてくれ、モドさんも住民との触れ合いで心がホッコリしたのだろうと思った。

取材で出会った人たちからは「山口市には何もない」などと悲観的な声も多くあったが、「住民の温かさ」こそ最大の観光資源なのだろうと確信した。(千田恒弥)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください