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「そろそろ休みましょう」…悩みや体調を可視化するスマホアプリ、発達障害の大学生が開発

産経ニュース / 2024年6月26日 11時0分

疲れ度を尋ねるアプリの画面、5つのレベルから選択する

発達障害などの当事者が毎日の疲れを記録・共有することでセルフケアにつなげ、困りごとを周囲に伝えることができるアプリが誕生した。開発したのは、発達障害のある立命館大産業社会学部の森本陽加里(ひかり)さん(21)。生きづらさに苦しみ、支援しようとする人にもそれを伝えられなかった自らの体験が原点。「疲れを可視化して、頑張りすぎて心が折れてしまう前に対処できれば」。趣旨に賛同する仲間とともに、当事者だからこそ分かる視点で、誰かの心を軽くする。

疲れがたまると警告

アプリの名称は「Focus on(フォーカスオン)」。朝晩に1回ずつ、自らが感じている疲れを5つのレベルから選択すると、その数値が0~100で表示される。疲れている日が続き、数値が90を超えると、自動的に「そろそろ休みましょう!」と警告が出る。日記機能もあり、悩みやその日の出来事を記録することもできる。

アプリに記録された疲労の状況や日記の内容は保護者や教員ら、自ら登録した人と共有することができる。これにより、伝わりづらい困りごとを周囲に知らせることができる。

開発のきっかけは、幼いころの体験だ。小学校の時から大きなチャイムの音や同級生が騒ぐ音、突然の授業変更などに強いストレスを感じていた。そうしたことが要因となって漠然とした生きづらさを抱えるようになり、小学2年の時からは登校できず、引きこもりがちに。その後、病院で広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害=ASD)との診断を受けた。

当事者の手で

親や担任の先生は悩みを理解しようと手を尽くしてくれた。しかし、自らが困っていることを正確に伝えることは難しかった。

「普通に生活しているように見えても、本人はとても疲れていたりする。思っていることがうまく伝えられず、支援者の認識との間にズレを感じていました」(森本さん)。疲れているということだけではない。普段の生活を頑張っているということを、誰かに知ってもらえるだけで心は軽くなる。

「頑張りすぎて一度心が折れてしまうと、元に戻るまで多くの時間とエネルギーがかかる。その前に休んだり、誰かを頼ったりすることができたら」

同じ悩みを抱えるのは自分だけではないはず。発達障害は社会的に認知度が向上したものの、必要な支援が行き届いているとの実感は薄い。「当事者の手で変えていく」と心に決めた。

学校現場に届けたい

高校入学後、発達障害の人のサポートについて具体的に考えるようになった。学校での居場所づくりなど、さまざまなアイデアが浮かんだが、「より多くの人に届けたい」との思いからアプリ開発を志した。

ビジネスプランを競うコンテストに出場したり、クラウドファンディングを募ったりして、問題意識を共有できる仲間や必要な資金を地道に集めた。令和4年12月には一般社団法人「Focus on」(滋賀県草津市)を立ち上げた。

プログラミングが得意なメンバーとともに、アプリのテスト版を作成。発達障害のある知人らにサービスを利用してもらい、寄せられた意見をベースに改良を重ねた。

今年2月末、ようやくサービス開始にこぎつけた。「リリースが近づくにつれて、とても忙しくなったが、長年実現したかったアプリができてとてもうれしかった。発達障害の人に限らず、『普通を頑張る人』が使えるアプリになった」と胸を張る。

アプリはすでに約1200件ダウンロードされ、利用者からは「求めていたアプリに感動している」「自分の頑張りが客観的に評価できて良い」との声が寄せられている。目標は、自分のような子供たちが使えるよう、学校現場にも普及させることだが、課題も多い。共有された児童生徒の疲れや困りごとに、教職員はどのように対応すべきか。受け止める学校現場へのヒアリングも不可欠だ。

「不登校に悩んだ小学生の時の自分が使いたかった、そんなアプリの開発を目指してきた。これからも改良しながら、本当に必要な子にアプリが届くように広めていきたい」と笑顔を見せた。

音や光、ざわつきが疲れやすさに影響

発達障害は、ASDや注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの総称。主な特性として、ASDには、物事や手順へのこだわりが強い▽コミュニケーションが苦手▽予想外のことにパニックを起こす。ADHDには、落とし物・忘れ物が多い▽じっとしているのが苦痛―などがある。

平成28年の厚生労働省の調査によると、国内で発達障害との診断を受けた人は推計48万人超。診断を受けていない人も少なくないとみられ、令和4年の文部科学省調査では、公立小中学校の通常学級に、発達障害の可能性がある児童生徒が、8・8%在籍していると推定された。

発達障害に詳しい国立障害者リハビリテーションセンター(埼玉県所沢市)の和田真氏は「発達障害では聴覚や触覚が過敏な場合があり、大きな音やまぶしい光、周囲のざわつきにストレスを感じる人も多い」と説明。普段の生活でも疲れを感じやすいという。

一方、身体の不調にすぐに気付きにくいという特徴もある。突然パニックに陥ったり、動けなくなるほどに疲れ切ってしまったりする人も珍しくない。

こうした特性へのセルフケアとして、外部からの音を遮断するヘッドホンやイヤーマフラーをつけることなどが有効とされる。

発達障害への理解は社会的にも広まりつつあり、人混みや騒音など日常と違う雰囲気が原因で感情が高ぶるなどのパニックになった際に利用してもらう「ブース」を設ける動きも。ブースは「カームダウン・クールダウンスペース」などと呼ばれ、公共施設での設置が進んでいる。(堀口明里)

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