懐かしのあの味を「読む」 『たそがれ大食堂』(坂井希久子) ダニーの食読草紙 将棋棋士・糸谷哲郎八段
産経ニュース / 2024年12月24日 11時0分
大人になった今でも、子どもの頃に大好きだったメニューを食べたくなることがある。オムライス、ハンバーグ、ナポリタン、プリン、今ならいつでも食べようと思えば注文出来るものだが、はじめての食堂や喫茶などのメニューを見た時、思わず頼んでしまうことが多い。あの懐かしい味が、今でも存在していることを確かめたいのかもしれない。
今回紹介する「たそがれ大食堂」は、そんな懐かしいレトロな食事を提供する百貨店大食堂を舞台とする物語である。
既に百貨店の大食堂そのものが、今では食堂街やフードコートなどに置き換わっていることが多く、懐かしい存在となっている。筆者が住んでいる大阪では、阪急百貨店の大食堂が有名で、学生やサラリーマンがひっきりなしだったという。
「たそがれ大食堂」は、今でも自社経営で大食堂を存続させている百貨店での大食堂の改革を描いた物語だ。
食堂部門でマネージャーを務める美由起、中目黒のビストロから引き抜かれてきた智子、そして副料理長を務める中園など多様なスタッフが、味やコスト、そして大食堂の在り方にそれぞれのこだわりを持ち時に衝突しながら協力していく。
当然ながら、作中には大食堂ならではのメニューが多く出る。懐かしさを喚起されるメニューが多いが、一等食べてみたくなるのはオムライスだろうか。とろとろの半熟卵と米の相性は、言われるまでもなく良いことが分かる。
寒い冬は懐かしさを感じやすい季節だ。
子どもの頃に食べたあの味を思い出しながらの読書も楽しいのではないだろうか。(将棋棋士 糸谷哲郎八段)
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