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先輩に罵詈雑言、母には憎悪…あの「一休さん」の素顔に迫る木下昌輝さん新刊「愚道一休」

産経ニュース / 2024年8月12日 11時0分

書影 木下昌輝「愚道一休」集英社

「一休さん」の愛称で知られる室町時代の禅僧、一休宗純(いっきゅうそうじゅん)は反骨と風狂に生きた破戒僧だった。作家、木下昌輝さんは、そんな一休に真正面から挑み、歴史小説『愚道一休』(集英社)として刊行。異色の禅僧と対峙すべく座禅を組み、禅の理解を深めるうちに、作家としての変化もあったという。

数知れぬ奇抜な言動

天皇の御落胤とされる高貴な出自ながら権門を嫌い、腐敗した禅宗を痛烈に非難した。修行に身を投じ、詩や書画にも優れた才を発揮した。一方で酒を飲み、女性と交わり、奇抜な言動は数知れず…。

「聖なのか俗なのか。一休は、分からないことだらけでした」と木下さん。そこで禅僧や研究者を取材し、自身も寺で座禅を組むなどして、異色の禅僧、一休への理解を深めていく。すると、一休の見え方が変わってきた。「矛盾に満ちた世の中で、答えを探し出すために、一休は半ば意識してそういう自分を演じたのでは」

本作は一休が6歳で母のもとを離れ、京の安国寺で厳しい修行に励む幼少期から書き起こされる。立派な高僧になることを望む母の期待に応えたいと、論語など四書五経を徹底して学ぶ姿がいじらしい。

テレビアニメ「一休さん」に親しんだ世代にとって、とんち自慢の一休を母は陰で優しく見守るイメージがあるが、本作では母への生々しい愛憎を強調した。

南朝出身の女官だった母と、北朝の天皇との間に生まれ、政治闘争に巻き込まれないように寺に出された一休。だが、母はさまざまな思惑や野心を抱え、天皇の血を引く一休を利用しようと近づいてくる男と付き合う。一休は母の行動に悩まされる。

「清く正しい母親像にしない方が、禅を描くのにはいいと思いました。一休は母への執着を捨てて生(き)のままに向き合うことを学んでいくのです」と話す。

詩作に優れ

一休は高僧を目指して修行を究めるが、長じるにつれ、遊女とねんごろになり酒を飲むなど、型破りな生き方をしていく。

《美しい女人を見ると、身の内からこんこんと詩興が湧いてくる》

破天荒なわが身を漢詩集『狂雲集』の中に著すなど、一休は詩作の才を発揮した。禅の真理を究めんとするあまり心身を害する「禅病」を発症したことも。一方で清廉な生き方を具現化する先輩僧侶、養叟(ようそう)に罵詈雑言をぶつけもした。

時代背景も混沌としている。禅宗の寺は五山を中心に腐敗、堕落が続いていた。民衆の間には一揆が起こり、やがて応仁の乱へと突入していく。「矛盾だらけの世の中で、あれほど情熱的に生きた人はいないし、風狂な生き方は、ある意味、皆の救いになったと思います」

悟りの境地

本作の肝は、禅僧の修行の一つで、「公案(こうあん)」と呼ばれる禅問答に深く踏み込んだことだ。公案の答えにたどり着くことを「透過」といい、禅僧にとってその数が多いほど、悟りの境地に近づくとされる。

例えば、犬に仏性があるかないかを問う公案「趙州無字(じょうしゅうむじ)」など、普通の感覚ではまるで理解不能なものも多い。知識や経験、あるいは虚栄心など全てを取っ払った先に、見えてくるものがあるという。

そんな公案透過をテーマの一つに据え、想像力を駆使しながら創作に励んだ木下さん。一休と向き合ううちに、小説の大がかりな修正を怖がらなくなったという。まさに作家としての新境地だ。

「答えに行き着くまで、脳みそに汗をかいて考え抜く。作家として物事を突き詰めるのと、禅の修行は通じるものがありました」(横山由紀子)

きのした・まさき

昭和49年、奈良県生まれ。近畿大卒。平成24年『宇喜多の捨て嫁』でオール読物新人賞を受賞し、直木賞候補にもなった。『まむし三代記』で日本歴史時代作家協会賞作品賞。著書に『人魚ノ肉』『敵の名は、宮本武蔵』『宇喜多の楽土』『炯眼に候』『孤剣の涯て』など。

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