一本の電話が変えた 岡山の夜間定時制高最後の卒業生13人、不登校生との交流を通じ成長
産経ニュース / 2025年2月4日 12時0分
きっかけは一本の電話だった。生徒数の減少に伴い、令和6年度末で閉校する岡山県の夜間定時制高校の最後の卒業生13人の大半は不登校を経験したり、人前で話すのが苦手だったりした生徒たちだ。そんな生徒たちが不登校の小中学生との交流や能登半島地震の被災地支援などを通じ、これまで避けていた人や地域との交流に喜びを感じるようになった。担任の岡田英将教諭(53)は「卒業も難しいとみられていた彼らが、ここまで成長するとは想像できなかった」と目を細める。
直感で「会わせたい」
13人が通うのは岡山県倉敷市の市立玉島高校の夜間定時制商業科。同校には昼間部もあるが生徒数の減少などにより、昼間部、夜間部とも5年度から募集を停止。4年度に入学した現在の3年が最後の卒業生となる。
夜間部の13人も大半が不登校を経験しており、人前で話したり、コミュニケーションをとったりするのが苦手だった。
2年前の5月、同校にかかってきた一本の電話が生徒たちを変える転機となった。電話の主は特製缶詰の寄贈を通じてさまざまな社会貢献活動を展開している一般社団法人「コノヒトカン」(倉敷市)代表理事の三好千尋さん。廃棄される食材を使った特製缶詰「コノヒトカン」を使った社会貢献活動を高校生がプレゼンするコンテスト「コノヒトカン1000缶プロジェクト」への参加を呼び掛けるためで偶然、岡田教諭が応対した。
「直感的に、この人を生徒たちに会わせたいと思った」と岡田教諭。9日後に出前授業の講師として招かれた三好さんがコンテストへの参加を呼び掛けると、生徒たちは参加の意思を示した。
岡田教諭が「缶詰を誰に渡したいか」と尋ねると、生徒たちから返ってきた言葉は「孤独を感じている学校に行けない小中学生」。救いの手を求めたかつての自分たちと重ねたのかもしれない。生徒の一人、石井大夢(ひろむ)さんは「捨てられる食材を缶詰にして困っている人たちにあげるのがヒーローのようで、自分もやってみたい」と思った。石井さんをリーダーに、生徒たちは「誰も置き去りにしない学校教育」をテーマにした不登校支援の企画書をまとめ、コンテストで入賞を果たした。
気持ちに寄り添う
企画書に沿って、生徒たちは「コノヒトカン」と不要な物を交換する会を開催した。参加する小中学生の気持ちに寄り添い、「大勢の人と交流する催しではなく、缶詰を受け取るだけにした」と生徒の一人、松尾侠(さとる)さんは説明する。スクールソーシャルワーカーを通じてチラシを渡してもらうと、保護者らを含めて50人以上が来場した。
生徒たちは空き缶アートの制作や缶けり大会、暗闇かくれんぼといった交流イベントのほか、地元の「子ども食堂」の協力を得てコノヒトカンを使った弁当100食を提供する活動も行った。
昨年3月の実践報告会に招待された石川県の小松大谷高校の生徒と親しくなり、6年度の「1000缶プロジェクト」は同校と共同で「誰も置き去りにしない社会」をテーマにした能登半島地震の被災者支援をプレゼンし、入賞。12月には石川県を訪れ、被災者にコノヒトカンを手渡した。
生徒たちは「交流活動を通し、所属感や家以外に居場所がない子供たちに、一人でない、必要とされている、自分のままで大丈夫と感じてもらえた」と手応えを語る。
活動通じて前向きに
今年1月には岡山南ロータリークラブ例会に講師として5人の生徒が招かれ、会員約100人の前で約30分間、活動状況などを発表。参加した生徒たちは「活動を通して自信がつき、大勢の人の前で発表できてうれしかった」と口をそろえた。
生徒の佐藤美香栄さんは「学校は授業だけではないと思えたので通う理由が見つかった。和食店のアルバイトで常連客の名前を覚え、会話できるようになった」と自身の成長を実感している。
「自分たちで責任感を持って主体的に取り組み地域社会とつながれたのは誇らしい。前向きになって登校できたり、次のキャリアにつながったりした」と岡田教諭。「子供たちを笑顔にする達成感を味わい、行動すれば変化を起こせることを実体験した。大きな財産、転換点になったはず」
生徒たちの活動を支えた三好代表理事も「出会ったときは下を向いて何も話せなかった。夢に向かって取り組む姿に学ばせてもらった」と喜ぶ。
石井さんはコノヒトカンを監修した料理人の元で修業したいと直談判し登校前に働いている。ホテルで接客担当として働くことが決まった生徒もいる。「学校に行けていないから、私はだめなんだと思わないでほしい」と佐藤さんは言う。後ろ向きだった自分も変われた。交流した不登校の小中学生にそんな思いが伝わることを願っている。(和田基宏)
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