1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

弥生人はなぜ神殿の柱に700年前の木材を使ったのか 紀元前1世紀の「大雨説」も謎深く

産経ニュース / 2024年8月4日 11時0分

「酸素同位体年輪年代測定法」での測定に用いた柱のサンプル。年代は紀元前782年と測定された=大阪府和泉市

国史跡で弥生時代の大規模な環濠集落「池上曽根遺跡」(大阪府和泉市、泉大津市)に新たな謎が浮上した。紀元前1世紀ごろの「神殿」と目される大型掘立柱建物の柱を再測定したところ、柱材に最大700年もの年代差があることが判明したのだ。同一の建物に年代に大きく隔たりのある木材がなぜ使用されたのか。多くの研究者も合理的な説明ができず、首をかしげる事態になっている。

30年経て再測定、極端な差

「想定を超える古い年代が出てしまった」

7月10日、国立歴史民俗博物館(歴博、千葉県佐倉市)と和泉、泉大津の両市教育委員会などが開いた池上曽根遺跡の柱材の年代再測定に関する記者会見。同席した年輪年代法の第一人者で奈良文化財研究所名誉研究員の光谷拓実氏は思わずうなった。

柱材の年代は平成8年、光谷氏が年輪パターンから割り出す手法で測定し、最も外側にある年輪を紀元前113~前52年と発表していた。それから約30年、年輪パターンのデータ蓄積を経て再測定すると、前回と全く異なる結果が得られたのだ。

再測定した5つのサンプルのうち、最も新しい「柱12」は前回と同じ年代の紀元前52年。だが、ほかの柱は前403年、前520年などと古くなり、前113年とされていた「柱16」は前782年までさかのぼった。当初約60年の範囲に収まっていたはずの柱材の年代差が、730年もの隔たりが生じることになった。

再測定結果を検証するため、最新の「酸素同位体比年輪年代法」による測定も実施。サンプルを1つ加えて6つで確かめたが、再測定を裏付ける結果となった。光谷氏は長い研究生活の中で初めて直面した事態に「前回はまだ信頼性が十分でなかったので再測定を試みたが、まさかこんなに極端な差があるとは」と驚くしかなかった。

邪馬台国「畿内説」後押し

平成7年に発見が公表された池上曽根遺跡の大型掘立柱建物跡は、弥生時代研究に大きなインパクトを与えた。

東西19・2メートル、南北6・9メートルで床面積135平方メートル。側柱22本の直径は50~60センチに及んだ。当時としては巨大な建造物といえ、この地域にすでに高度な建築技術があったことを示していた。

周辺の出土物から集落の中心で祭事や政務が行われていたこともうかがわれ、建物跡は「神殿」と推測された。畿内説と九州説に割れた「邪馬台国」の所在地論争を巡り、建物跡の発見が畿内説を有力視する流れを強めることになった。

さらに翌8年に公表された光谷氏による柱の年代測定が、さらなるインパクトになった。5つのサンプルのうち4つは伐採時期までは判明しなかったが、樹皮が残った状態の「柱12」は、測定結果の紀元前52年に伐採されたと特定できたのだ。

発見当初、建築時期は紀元後1世紀ごろとされたが、100年近くさかのぼる前1世紀に改められた。弥生時代の遺跡の中で、明確な時期を示す「定点」として扱われるようになっていた。

それだけに今回の再測定結果は、今後の弥生時代研究に影響を与えかねない「ショッキング」な内容といえた。

疑問残すも3つの可能性

柱材の再測定結果で判明した年代の大きな隔たりの理由は一体何なのか。今のところ、古い建物の部材を使い回した「転用材」▽古い年輪まで到達するほど木を削った「削り出し材」▽古い時代に倒れた樹木が土中などで保存された「埋没材」-の3つの可能性が考えられるという。

だが、なぜ数百年間も朽ちずに使える状態を保てたのか、樹木を数十センチも削る必要があったのか-など、どの説にも疑問が残る。歴博の坂本稔教授(文化財科学)は「現時点では、これが正解というものはない」と打ち明ける。

その上で、名古屋大大学院の中塚武教授(古気候学)は、ある推測を披露してくれた。「紀元前1世紀は歴史上でも雨が激増した時期。川底などにあった埋没材が洗い出されたのではないか」というのだ。

中塚教授は、今回の再測定を裏付けた「酸素同位体比年輪年代法」の研究者。酸素同位体比のデータはその年の気候状況に影響されていることが分かっており、建物が築造された前1世紀は雨が多かったことがデータから読み取れるという。

太古の昔に埋没した木材が大雨で露出して川に流され、弥生人が建物に使ったのか-。ただ、中塚教授もあくまで推測の域を出ないことは強調しており、専門家でさえ想像できない出来事が起きた可能性も十分にある。(藤谷茂樹)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください