20代は抵抗なく…「化粧する男性」急増のナゾ メンズコスメ市場も500億円規模に拡大
産経ニュース / 2024年8月26日 10時0分
男性が化粧を楽しむ「メンズメーク」が若い男性を中心に広がりを見せている。調査会社によると、男性化粧品の市場規模は約10年前と比べほぼ倍増。化粧をする男性韓流アイドルの影響や、新型コロナウイルス禍後の身だしなみへの意識の高まりが背景にあるという。中高年世代では化粧を一度もしたことがないという男性も少なくないが、専門家は「男性がメークをしなくなったのは人類史の中では比較的最近のことだ」と指摘する。
ファンデでシミやシワもカバー
8月上旬の昼過ぎ、神戸市中央区の生活雑貨店「神戸ロフト」メンズコスメコーナー。男性用化粧品がずらりと陳列され、男性客がリップクリームやアイブロウ(眉墨)などを熱心にチェックしていた。
ファンデーションの成分をベースに日焼け止めや美容液などが一つになった「BB(ブレミッシュ・バーム)クリーム」を購入するため同店を訪れた神戸市兵庫区の大学2年、井村相太さん(20)は、化粧水や乳液でのスキンケアを欠かさない。約1年前から友人の勧めでBBクリームをつけるようになったといい、「自然に肌をきれいに見せることができ、重宝している」と話す。
アパレル関係の仕事をする神戸市の別の20代男性は、「女性にモテたい」「カッコよくありたい」との願望からメークを始め、「最初は抵抗があったけど、気づいたら周りも当たり前のようにやっていた」と振り返る。
今では、美容液やパックなどによるスキンケアに加え、シミやシワなどをカバーし均一な肌に仕上げるファンデーションやコンシーラーで仕上げる。周囲の女性からは「身だしなみに気を使っているんだね」と軒並み好評だという。
一方、中高年世代の受け止め方は異なるようだ。神戸市北区の男性公務員(57)は「時代の流れなのかなと思う」と一定の理解を示しつつも、「昔は歌手や芸能人くらいで、一般の男性でメークをしていた人はいなかった」と抵抗感を示した。
江戸時代までは日本でも一般的
調査会社「インテージ」によると、男性化粧品の市場規模は、平成29年は249億円だったのに対し、令和5年には約1・74倍の433億円にまで拡大。今年も1~6月までに前年同期と比べ15%増で推移している。このペースでいくと単純計算で500億円規模に上り、8年間に倍増する計算になる。
なぜ近年、男性用化粧品の売り上げが伸びているのか。
同社の担当者は、化粧をしている男性芸能人や韓国系アイドルの影響で注目が集まり、市場の拡大につながったと分析する。また、コロナ禍で多くの人がマスクを着用する一方、オンライン会議などで自分の顔を見る機会が増えた。コロナ禍の収束とともにマスクを外して外出する機会が増え、「身だしなみに気を付けようとする意識がさらに高まったのではないか」と推測する。
一方、化粧文化史に詳しい東北大大学院文学研究科の阿部恒之教授(心理学)は「そもそも男性が化粧をしなくなったのは、人類史の中では比較的最近だ」と指摘する。
阿部教授によると、古代の彫像には化粧をした男性の姿が残されており、古代エジプト時代の王「ツタンカーメン」のマスクにもアイラインが施されている。日本でも、平安時代の貴族が眉毛をそって描いたり、白粉(おしろい)を顔に塗ったりしていたほか、戦国時代の武士も戦に赴く際、首を取られても見苦しくないようにとお歯黒をしたり、眉毛を整えたりしていた。
江戸時代の「おしゃれ教本」とされる「都風俗化粧伝」(佐山半七丸著)には、当時流行した化粧やファッションが記され、男性が白粉をつける際の作法も書かれているという。阿部教授は「男性が白粉をつけることは、江戸時代のおしゃれ教本に載るような一般性を持っていた」と解説する。
管理社会から多様性の時代へ
江戸時代までは一般的だった「メンズメーク」。明治時代以降、こうした文化が薄れてしまった理由は何か。
阿部教授は「工業化が進展して男性が工場や会社で勤務するようになり、社会の管理下に置かれるようになった。おしゃれや自己表現が『邪魔なもの』として抑圧されたのでは」と分析する。
近年、男性の化粧が行われるようになった背景については「ジェンダー平等や多様性の重視といった価値観が浸透し、女性的だと非難されなくなったことも影響している」。また、「『メークは女性がするもの』というラベリングがはがれ、社会が許容するようになった」とし、「『男性だって美しくていいんじゃない』とする世間の風潮ができた」と説明した。
また、阿部教授によると、戦時中は質素・倹約が求められ、女性のおしゃれやメークですら「抑圧されていた」。「メークは安定した平和な社会があってこそ。食うや食わずで命の心配をしているような状況では、とてもメークやおしゃれをする余裕はなくなる。自由にメークができる社会が継続することを願っている」と強調した。
男性も女性も化粧を楽しむ昨今の状況は、われわれが比較的安定した社会を生きている証左といえるのかもしれない。(高田和彦)
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