最後の青龍描き古都護る神獣「四神」完成 警察署の壁画に82歳絵師キーヤンが込めた思い
産経ニュース / 2024年11月9日 9時0分
キーヤンの愛称で親しまれる京都市在住の壁画絵師、木村英輝(ひでき)さん(82)がこのほど、京都府警東山署に青龍の壁画を制作した。青龍は平安時代から京都の四方を護(まも)る神獣「四神(しじん)」のうち、東を護る神獣として知られる。木村さんは11年前から東以外の三方を護る神獣の壁画を市内の警察署などに次々と描いており、今回の青龍で四神を巡る物語が完結した。「これで京都の街を本当の意味で護ることができる」と心から喜んだ。
「強い警察に」
府警東山署で10月にあった壁画の除幕式。地元住民らが色付けに参加するなどして完成した壁画を前に藤原哲也署長は「安全安心のシンボル。強い警察になることを後押しされているようで大変うれしい」とあいさつした。
36匹のコイが天に向かって飛翔(ひしょう)し、最後に龍に変身する様子を描いた。絵は、急流を登ったコイが最後には龍に変わるという中国の故事にちなむ。
木村さんが好んで使うウルトラマリンと呼ばれるブルーのアクリル絵の具などを使って、妻の知位子さん(81)と制作パートナーの元満(もとみつ)みずほさん(42)の3人で10日間で完成させた。絵の近くには署員が考案した「青龍と共に護ろう東山」の文字も踊る。
空想上の生き物は書かない
長らく数多くの伝説的ロックイベントに関わるプロデューサーとして活躍していた木村さんは、還暦直前に壁画絵師に転じた。モットーは「記録ではなく、記憶に残る作品を」。額縁に入る絵ではなく、街で人々の目に触れる〝ロック〟な絵を描く道を20年以上歩み続け、250点以上の作品を残している。
これまでコイや象、蓮やボタンなど実在する動植物を題材に、詳細にスケッチをするなどの準備をして壁画を手がけてきた。実は龍という空想上の生き物の壁画を手がけるのは今回が初めて。今年は辰年ということもあり、昨年から龍を描いてほしいという依頼が殺到していた。「12年後の辰年には描けないかもしれない」。そんな思いもあり、龍を描く決意を固めた。
非行少年の立ち直り支援
平成25年、京都府警中京署のコンクリート壁面に都の西を護る「白虎(びゃっこ)」を描いたのが、四神のスタートとなった。
当時、警察署の統廃合により中京署が新設されたものの、「敷居が高くてなんだか近寄りがたい」。当時府警本部に勤務していた田中博巡査部長(55)が聞きこみで地域住民のそんな声を耳にし、一計を案じた。「木村先生の壁画があれば、気軽に警察署に出入りしてもらえるのではないか」
警察署の壁に直接絵を描くのはいかがなものかと、当初は抵抗感があったという。そこで、田中巡査部長は近所の子供たちに絵の色付けに参加してもらうことを提案。「親や地域住民も集まり、警察を身近に知ってもらえる。署員との交流も生まれ、長く親しまれる機会になる」(田中巡査部長)。色付けは近所の子供たちだけでなく、非行少年の立ち直り支援の一環としても行われた。その後、同署は子供たちの登校時の集合場所にもなった。
現在では、インバウンド(外国人訪日客)が写真撮影のために気軽に訪れる観光名所にもなっている。
巡ってきた好機
当初、中京署に何を描くかは木村さんに任せていた。「四神は京都に描いてこそ意味がある。大阪や東京ではダメだ」
四神は中国の風水を基に、四方の方角を守護する空想上の生き物。桓武天皇は延暦13(794)年、四神が存在するのにふさわしい場所として京都を選び、平安京を開いた。いつか四神を京都の街に描きたいと思っていた木村さんに、絶好のチャンスが巡ってきたのだ。
28年には南署に「朱雀」をイメージした赤いクジャクを、令和3年には京都市消防局北消防署に「玄武」をイメージしたカメを描いた。木村さんは「京都の街は古いが、新しいことに挑戦できる街。四神も昔の絵をなぞるのではなく、私流で描いた。安心して暮らせる街になってほしい」と目を輝かせた。(田中幸美)
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